学校から駅までが歩いて10分。下りの電車に乗って西に向かって6駅。駅から家まで自転車で15分。家に帰った豪介は制服を脱ぎ素早く着替えるとすぐに自転車に乗って出かけた。牧園ゆかりが働いていたコンビニを探すためだ。あの時店長の目で見た印象的な田んぼと山々の連なりは忘れようがない。おそらくあのコンビニだろうと目星をつけてそこに向かう。自転車で田舎道を20分も走るとそのコンビニに到着した。自転車を止めて店内に入る。
 なんとも言えない緊張感が豪介を包んでいる。あの時のことを思い出して窓の外を見る。
『ビンゴだ!』
 やはりこの景色だった。窓の外に見える田んぼと山々の連なり。心臓が高鳴る。牧園さんがバイトしているのはここだと確信する。一応学校はバイト禁止だが、学校から遠く離れたこの田舎の場所なら先生たちに見つかることもない。豪介は牧園さんと秘密を共有したような気持ちになって胸が締め付けられるような息苦しさを覚えた。ということは彼女の家も近いのか? もしかしたら隣の中学校区だったのかも知れないと思う。
 コンビニで働くバイトは通常15人ぐらいだと聞いたことがある。15人もいるとさすがに目を合わせるだけでも一苦労だがヒントはあった。あの日店長が見ていたシフト表だ。あのシフト表には黄色のラインが引かれていた四人の名前があった。一人は牧園ゆかり、つまり後の三人が怪しいということになる。その三人と目さえ合わせておけば彼らが何を見て何を聞いているか自分が寝ている間に盗むことができる。
『さて、ここからが本番だ』
 豪介は正義感に燃えていた。『人と繋がれる』というこの力を使って、牧園さんに降りかかった「コンビニネコババ事件」の真相を解明するという正義だ。疑いを晴らせるのは『俺しかいない!』豪介は意気込んだ。
 一つ大きく深呼吸をして、店内を伺う。何人かのアルバイトらしき店員が働いているが、牧園さんは平日シフトには入っていないようだ。まずはカウンターの中にいる男性アルバイトの確認だ。茶髪のそこそこ格好いいがチャラそうな男がいる。何気なさを装って近寄り、この男の制服の胸についている名札を確認する。「大原純」とあった。
『ビンゴだ!』あのシフト表に載っていた奴だ。
 じっと見ていると向こうもこちらを見て来た。
『目があった。よしっ!』