僕は犬のウンコだけど、特殊能力を持っている

 クラスのみんなは下校の用意をし、あるものは部活に行くための準備をしている。そんな中で、蔵持銀治郎のもとに辛島優斗と小林美咲がやってきたのが見えた。雰囲気でわかる。いよいよ告白だ。
『自分がゲスだと思うが、こうしないわけにはいかないんだ』
 銀治郎の告白を覗き見するのだ。それも本人たちの目と耳になって。
『一体誰と繋がる? 銀治郎か、牧園さんか、美咲か、優斗か、一体誰だったら僕は冷静に盗み見ることができる…』
 豪介はさんざん考えて、銀治郎と繋がることに決めた。こんなゲス野郎と繋がるのはそれだけでも嫌だったが、牧園さんの意識に入って、もし万が一牧園さんがオーケーしたら、その時の銀治郎のにやけた顔を見るのが嫌だった。勝ち組の余裕の笑い、戦うことなく完膚無きまでの負けを見せつけられる奴のにやけ顔、それだけは絶対に見たくなかった。
 3人が教室を出て行くと、豪介は急いで机に突っ伏した。さすがに昨日の徹夜は自分を最高の状態にしてくれている。目を閉じた途端、体が急速に重くなっていく。
『蔵持銀治郎…、蔵持銀治郎…、蔵持銀治郎…』

 意識がスゥーと…。
 
「ゴンスケ、すごいことってなんだよ?」
 眠りに落ちそうな意識が現実に引き戻された。
 目を開けると目の前に久保田治がいた。久保田がニヤニヤ顔で話しかけている。友達であるがゆえの最高のお邪魔虫だ。今だけは久保田に邪魔されるわけにはいかない。
「あっ、俺体調悪から、保健室に行ってくるわ」
「ゴンスケ大丈夫か、ついて行ってやろうか」
『余計なことはしなくていい。頼むから俺のことは気にするな』そう思って、「いや、大丈夫、風邪かな。お前に感染るといけないからよ」と伝える。
 ところが久保田は優しいやつで「ついて行くぐらいじゃ感染らないよ」と言ってついてくる。「なぁ、それより昨日の電話のすごいことってなんだ?」
「いや、それはまだなんだ、まだなんだけど、本当に大丈夫だから」
「いいって、いいって」
 豪介は保健室に着くと、「ちょっと体調が悪いので、寝かせてくれませんか」と言ってベッドに横になった。まだしつこく久保田は横にいる。
「なぁ、なんだよ、すごいことって、それを教えてくれたら帰るから」
 こうなったら仕方ない、豪介は覚悟を決めた。
「俺はもしかしたら女子と付き合うかもしれない」
「えっ! お前、覚悟を決めたのか」