豪介の心臓がきゅっと縮み痛みが走った。
『なんで、なんであいつの口から牧園さんの名前が出るんだ?』
「へぇ、そうなんだ」
「絶対に俺の女にする」
「彼氏いないの?」
「関係ねぇよ」
「強気なんだ」
「どうする、変なガリ勉がついてたら」
「彼氏いるか、私が聞いてあげようか」
「いいよ、普通オレを選ぶでしょ」
「すごい自信ね」
 3人がニヤニヤ笑っている。
『なんてことだ、なんてことだ、なんてことだ!』
 思わず豪介は席を立ち上がった。勢いよく立ち上がったので椅子がガタンと音を立てて倒れ、3人が豪介を見た。
「あっ、ゴメン」なんでか知らないけど、豪介は謝ってしまった。
「おっ、ゴンスケ、典子とうまくいってるか?」三人が声を出して笑う。
 豪介は銀治郎の声を無視してその場を後にした。典子のことでからかわれたことよりも何よりも、銀治郎の口から出た牧園ゆかりの名前に心がかき乱された。よりによって、よりによってあの蔵持銀治郎だ。豪介は自分が牧園ゆかりにふさわしいなんてこれっぽっちも思っていなかったが、『こんなのは、こんなのは絶対に嫌だ!』納得がいかなかった。

 2時間目の休み時間、美咲が優斗に目配せしながら教室を出て行った。あの様子ならきっと1組に行って牧園さんに付き合っている人がいるのか聞きにいくつもりだ。豪介は牧園さんに彼氏がいるのか気になって気になって仕方がなかった。銀治郎の毒牙にかかるくらいなら彼氏がいてくれて銀治郎を振ってくれた方がいいし、でも彼氏がいたらいたでショックだ。そこのデリケートな部分は考えないようにしていたのに現実を突きつけられる。
『こうなったら、美咲の目と耳を借りて確認するしかない。よぉし寝るぞ』
 豪介は机に突っ伏して目をつむった。
『…眠れない』
 豪介は神経が高ぶりすぎて全く眠気が襲ってこなかった。
『こんな大事な時なのに眠れないなんて…』自分の能力の不甲斐なさに苛立つ。
 結局この休み時間は美咲と繋がることができず、授業開始のチャイムが鳴った。美咲が1組から帰って来ると、銀治郎たちに目配せして自分の席につく。ということは何らかの情報を得たということなのだろう。
 彼氏がいるのか、いないのか…。
 結論は3時間目の後の休みの時間に持ち越しだ。豪介は平常心でいられなかった。