豪介は一人で難しいことを考えることに疲れ、久保田治に電話して、一緒に考えてもらうことにした。豪介のナマコ理論に久保田もなるほどとうなづいた。久保田と豪介は自分たちが持っている写真から典子が少しでも写っている写真をお互いに探し出し、拡大して見ながらあぁでもないこうでもないと考えた。そして二人が行き着いた結論は…。
「やはりブス」だった。
 ただし、一つ気がついたことがあった。1年の入学時はチビでデブで、歯並びが悪く、彫りが異様に深くてバランスの悪いブスだったが、2年になると背が伸び、痩せてきていた。歯は矯正して綺麗になり、顔の雰囲気が少しづつではあるが変わってきていた。どちらが言い出したのかわからないが、彫りが深いのも、…もしかしたら見ようによっては、…あと5年経って体と顔のバランスが整えば、…さらに化粧を覚えたら、…大化けするかもしれない、と。こうして二人は、典子は当初思っていたほどのブスではなく、「希望が持てるブス」だと注釈がついた。
 さらに二人は、気がつかないふりをしていたことにも正直に目を向けた。それは…。
 典子の胸が大きい。
 という事実だ。どの写真を見ても胸が大きく、それはきちんと評価すべきだと結論づけた。
『希望が持てるブスで、胸が大きい。これなら階段を降りてもいいのかもしれない』
 底なし沼の底にいて両手を広げる典子は胸の谷間を見せていた。豪介は自分の心が典子に向かってダッシュしていることを自覚する。でもこのことは久保田にはまだ内緒にしておいた。
「いいかゴンスケ、チャンスの神様は前髪しかないんだ。チャンスの神様が通り過ぎたら後ろにはつかもうと思っても髪はないんだぞ。掴める時に掴んでおけ」久保田はそう言うと電話を切った。
『あいつはたまにいいことを言う』
 この日を境にして豪介は典子のことを意識した。それは意識したどころではなく意識しまくった。

【よっ!】
 【はいはい】
【今、大丈夫?】
 【どうしたの?】
【ね、ちょっと空眺めてよ】
 【待って、今見るから】
【今日は、星が綺麗だよ】
 【本当だ。文太君も星を見てるんだね。なんか不思議】
【!】
 【!】
【コムギ今見た?】
 【見た】
【今流れ星が流れたよね】
 【うん】
【一緒に見たよね】
 【うん】
【なんか、すごいね】
 【うん、なんかすごい】
【なんか、すごいね】