「典子が気持ち悪くなったのはこれだったのかぁ。でもゴンスケと典子だからな。どっちもどっちだなぁ」
 二人は面白おかしく典子とゴンスケのことを話題にしたが、それでも自分よりイケてないと思っている二人が付き合うかもしれないという事実は大悟にも道治にも衝撃的だった。
『あのゴンスケが…』

 夜、花田豪介は自分の部屋で今日の出来事について考えた。さすがに今日はコンビニネコババ事件の捜査をする気にはなれなかった。豪介は女子と付き合ったこともなければ噂になったこともなく、昼間の出来事に対する心の備えが全くなかった。無防備な心に突然飛び込んで来たゼンマイ仕掛けのおもちゃのように暴れまわった。豪介だって女子には興味がある。いつだってチャンスがあれば付き合いたいと思っている。牧園さんみたいな彼女が欲しいという理想もある。だが現実は厳しい。初めて訪れたチャンスで、しかも相手は自分のことを好きだと言っている。だが…。
『学年一のブスだもんなぁ…』
 それでもこのチャンスを逃したら一生女子と付き合えないかもしれない。だが付き合ってしまえば結婚するかもしれない。それでも普通の高校生のようにあんなこともしたいし、こんなこともしたい。豪介の心は揺れに揺れた。
『俺は階段を降りたほうがいいのか…』
 典子が底なし沼の底で「豪介君こっちに来て」と両手を広げて待っている気がした。
 豪介は自分の心を落ち着かせ、冷静になって考える。
『付き合うのか、付き合わないのか…』
 どうしても引っかかるのは学年一ブスという容姿だ。
『学年一ブスじゃなければ絶対に付き合うのに…』
 だが、ちょっと待てと自分に問いかける。
『果たして本当に学年一ブスなのか?』
 もしかしたら学年一ブスだという噂が先行して、その意識で見るからブスに見えているだけかもしれない。人間は先入観で物を見がちだ。意識が変われば認識もかわる。それは魚屋のナマコを見てそう思う。水槽にいるナマコはグロテスクな姿で不気味だ。だが食べれば美味しい。今度はそう思ってナマコを見ると、グロテスクには見えなくなる。典子もそれと同じではないか。学年一ブスだと思って見るからブスに見える。もう少し冷静に見れば、もしかしたら…。