帰りのホームルームの時間では三島先生が「今日、中間テストの成績表を配ったけど、大学へ推薦を受けて受験しようと思っているものは3年生の1学期の期末テストが一番大切になってくるんだからな。あと一年だ。いいか、今から準備しておかないとすぐに3年生になるんだから、わかってるな。それと他の高校では大学受験の準備をもう始めてるんだから、推薦じゃなくて一般入試を考えている者もきちんと勉強するように。大学受験の戦いは始まっているからそのつもりで」と、ありがたいお説教をしてくれて終了し、生徒たちが立ち上がった。その立ち上がり方に開放感がにじみ出ていた。
 他のクラスでもホームルームが終わったらしく生徒が一斉に教室から出て来た。廊下は、男女共学特有のお互いを意識するような少しの息苦しさと、甘いときめきとがないまぜになった空気に、友達同士の屈託のない楽しさがブレンドされたみずみずしい果物のような空間になった。何か楽しいことでもあったのか大声で笑いながら飛び跳ねている女子の一団がいるかと思うと、胸にボールでも詰めているのか大きく膨らませ腰をくねらせながら歩いているバカな男子がいる。
 豪介はそんな周りの空気に染まることもなく、彼ら彼女らの脇を通り抜けて行く。一緒に帰ろうと久保田治を探しながら階段を降りていくと、階段を上ってきた三人の楽しそうな女子とすれ違った。
 豪介の身体に電気が走った。
「あっ!」豪介は思わず声を発していた。
 三人の女子の真ん中に、コンビニのおっさんの目を通して見たあの子がいたのだ。豪介の声に反応してその子が顔をあげた。そして目があった。
『そうか、同じ学校だったのか…』
 女子の一人がその子を「ゆかり」と呼んだ。豪介はコンビニの店長と繋がっていた時のことを思い出す。
『ゆかり…牧園ゆかり、そうだ牧園ゆかりだ』
 豪介は去っていく彼女の後ろ姿をしばらく見ていた。あのとき店長は〈誰かがやってるかなぁ〉と呟いていた。ということは…。
『決めた。牧園さんのために真犯人を見つけてやる!』
 女っ気のない豪介にとって退屈な学校生活が急に意味のあるものに変わった。豪介は友達の久保田のことは忘れて一刻も早く家に帰るために駅に急ぐ。久しぶりに自分の力を有意義に使うことができそうだ。