『冗談じゃない、この疫病神が! お前たちなんかうんざりだ、とっとと何処かへ行ってしまえ!』と心の中で罵倒して、自分が去って行く。
 豪介はとにかくこの場を離れ、気持ちを落ち着けようと男子トイレに向かった。男子トイレは階段のそばにあるがそのためには2組と1組の前を通らなければいけない。2組の前を通ると、教室の中からゴンスケと呼ぶ声が聞こえた。豪介がその声につられて教室の中を見ると、典子の姿が見えた。典子の周りには数人の男女がいて、典子をはやし立てているように見える。
「ゴンスケが通った、ほら声をかけなくていいのかよ」
「やめてよ、もぅ」という典子の声が聞こえてくる。豪介は自分を好きだという女子の声を聞き、意に反してドキッと体が反応した。
『なんだ、なんで俺は典子にドキッとしなくてはいけないんだ、そんなの間違ってる!』

 学校が終わるといつものように山形大悟の家に鈴木道治が遊びにきていた。大悟が道治のためにジュースを出す。道治がそのジュースを飲みながら大悟に聞いた。
「なぁ、大悟は大学どこ行くかとか決めた?」
「俺はまだ決めてない。道治は?」
「県外だな。一人暮らしもしたいしね」
「県外かぁ」
「一人暮らししたら女連れ込み放題になるしさ」
「道治はそれが目的だろ」
「当たり前だよ。大学生なんてみんな楽しくやってるんだろうからさぁ。あぁあいいよなぁ、俺も早く大学生になりてぇ。それでもって女子と付き合いてぇ」
「道治は発情期だな」
「まぁな」
「どんな子がいいんだよ?」
「そりゃ、理想は綺麗でおっぱいが大きい子がいいよ」
「例えば?」
「例えばで言うと、顔は3組の小林美咲ぐらいで、胸はそうだな。Cカップだな」と言って道治は空中の胸を揉むような手の動きをして変な声を出して笑った。
「なんだよそれ」
「でもよ本当は、付き合ってくれるんなら誰でもいいんだ。冷静に考えたらさ、そんな高望みしても相手にしてくれるわけないじゃん。だから、俺のこと好きになってくれたら誰でもいいんだよ」
「もしかして好きな人できた?」
「なんで?」
「ほら、前はまだって言ってたじゃない」
「まぁ、そりゃ本当はいないわけじゃないけど…。そういえば、典子とゴンスケって付き合うのかな?」と、道治は話を変えた。
「そうだなぁ。あの時典子顔真っ赤になってたもんなぁ」