「なんでだよ。そんなことあるわけないじゃん」
「そうだよな」
「変なこと言うなよ」
「でもな、2組はその話で持ちきりだぜ」
「なにそれ?」
「だからお前が典子のこと好きなんだってよ」
「えっ? 一体、どういうことだよ?」
「だからそんな話になってんだよ」
「誰がそんな話を…!」
 そういえば、豪介には思い当たることがあった。蔵持銀治郎の言った言葉が思い出される。「俺もちゃんと借りを返さないとな」あいつか、あいつが面白半分に噂を流しているのか。それで、自分が見られている気がしたのか。原因はこれだったのか。
「違う、俺は全然好きじゃないよ」
「まぁ、そうだろうな。しかも、お前には言いにくいんだけど…」
「なんだよ?」
 久保田は改まった調子になり、真剣な顔つきで話し始めた。
「俺実はな、2組の中村芽衣っているだろう、あのちょっと可愛い子」
「知らない」
「まぁいいよ。2組の前を通った時にその子にちょっとって呼び止められたんだ。そしたら後ろに典子がいて、驚いたよ」
「何がだ?」
「頼まれたんだよ」
「何を」
「写真を…」
「写真?」
「あぁ。典子が写真が欲しいって言うんだ。その時だよ。2組に来た銀治郎が〈みんな聞いてくれ、ゴンスケが典子のことを好きだってよ〉って言って。そしたら教室の中がわぁーって。わぁーってなったんだ。それで、典子を見たら顔が真っ赤になって下を向いてんだ。俺もウワァって思ったよ」
「嘘だろ?」
「ほんとなんだよ。だから、体育祭の時に二人で撮った写真があったろ、あれを携帯で見せて、これでいいって聞いたら、うんって。だからその場で写真を送ったよ。俺は確信したね。典子はお前のことが好きだ」
「えぇ! なんて余計なことを!」
「まぁ、お前の気持ちもわかるけどな。くれって言うのを嫌だとも言えないだろう。とにかく2組は今お前が典子を好きだって話題で持ちきりだよ」
「…最悪だ」
「同情するよ」
 久保田は言葉とは裏腹にこの騒動を楽しんでいるようにも見えた。ピンク色の悪の三人組が笑い合いながら教室に入って来ると豪介に近づいてきた。それを見て久保田がスゥーと豪介から離れていく。
「ゴンスケ、よかったじゃん、典子もマズマズのいい反応だぜ、顔赤くしちゃってよ。お似合いのカップルだよ。これで借りは返したからな」
 銀治郎に対する怒りがフツフツと湧いてくる。