店の中のゆかりと唯がソフトを食べ終え立ち上がる。銀治郎が二人を目で追っている。その銀治郎を見て優斗と美咲が顔を見合わせた。二人とも感じたことは一緒だった。ゆかりと唯がお店の外に出てくると、銀治郎が右手はポケットに、左手を壁につけゆかり達の行く手を阻むようにして声をかけた。
「可愛いね」
 井上唯は急なことにドキッとしたが、牧園ゆかりは銀治郎を見て軽く微笑むと、なんでもないことのように銀治郎を避けて駅に向かった。唯はそんなゆかりの後ろをついて行く。銀治郎は離れて行くゆかりを見ていた。その顔がニヤついていた。

 花田豪介は昼間に見た牧園さんの可愛さが忘れられず浮ついた気持ちで夜を迎えていた。
『あの可愛い牧園さんの無実を晴らし、しかも守っていくのは、俺だ』
 豪介はそんな前向きな気分でここ数日代わる代わるあの三人と繋がって探った私生活について一度考えをまとめてみようと思い立った。
 徳永伸也・・今時珍しい古ぼけた和室のアパート、カーテンを閉めた部屋の中は暗く、布団は敷きっぱなしで煎餅みたいになっている。もう時期梅雨が始まるというのにまだこたつは出しっ放しで清潔感のかけらもない。その部屋で徳永はオンラインゲームを飽きずにずっと続けていた。大原純と違って女性ばかりか男性も含めて誰かに連絡を取るということがなく、ほとんど金のかからない生活を送っていた。唯一外出したときはゲームを売りに行った時で、ただその時に4500円の中古のゲームソフトをじっと見つめてその場を離れず、徳永伸也が財布を見ると現金は2000円しか入っていなかった。