豪介は牧園さん見たさに急いで弁当を食べ1組やってきたのだが、牧園さんの周りには女子が取り囲んでいてうまくその姿を見ることができなかった。それどころか廊下側の男子が豪介に気づき何事かと視線を向けてきた。これ以上1組の前でウロウロしていたら怪しまれる。豪介は次の授業が国語であることを確認して渋々1組から離れる。
『こうなったら誰かの目を借りて見てやる。だって、俺にはそれができるから』
ちょうどそこに近藤麻里先生がやってきた。豪介はとっさに挨拶した。
「先生、こんにちは」
「あっ、はい、こんにちは」
近藤先生は怪訝な顔をして豪介を見た。が、そのおかげでしっかり目を合わせることができた。
近藤先生は32歳、1組の担任で国語の先生だ。痩せた体つきで薄化粧、メガネが定番だ。
『メガネをしていなかった』
コンタクトにでも変えたのだろうか。しかもいつもは髪も無造作に後ろで結んでまとめていたのに今は結んでいない、緩やかにカーブなんかしちゃって整えている感じだ。雰囲気が少し垢抜けたような気がする。男の影が全くなく、きっとこのまま一生独身だろうとみんなが言っていたのに…。そういえば最近恋人ができたのではと噂を聞いたことがある。これなら噂も間違いではなさそうだ。
でも今はそんなことは関係ない。豪介は自分の教室に戻った。
梅雨の前のこの季節、日差しはポカポカとほどよく体を温めてくれ、校庭の木々を揺らして風も見える、午後の授業が始まるとこの爽やかな陽気が生徒を眠りに誘う。豪介たち3組の授業は再任用の爺ちゃん先生が受け持つ世界史の授業だった。その先生は黒板に向かってブツブツ言いながら年表を書いているのだが、その声がお経のように耳に優しい。まぶたが重くなり、声がどんどん遠ざかって行く。いいぞ、いい感じだ…。
『近藤先生、近藤先生…、さぁこい、近藤先生…』
スゥーと光が向こうからやってくる。
たくさんの生徒がこちらを見ている。あまりにたくさんの視線が急に飛び込んできて豪介はびっくりしたが、近藤先生とうまく繋がったようだ。先生は教壇に立ち、生徒を見渡しながら授業を進めている。
『どこだ、どこに牧園さんはいるんだ?』
自分の思い通りに視線が動かせないことにイライラする。じれったい。
『見たい見たい見たい』
近藤先生が生徒を指名して、その生徒が教科書を朗読していく。
『こうなったら誰かの目を借りて見てやる。だって、俺にはそれができるから』
ちょうどそこに近藤麻里先生がやってきた。豪介はとっさに挨拶した。
「先生、こんにちは」
「あっ、はい、こんにちは」
近藤先生は怪訝な顔をして豪介を見た。が、そのおかげでしっかり目を合わせることができた。
近藤先生は32歳、1組の担任で国語の先生だ。痩せた体つきで薄化粧、メガネが定番だ。
『メガネをしていなかった』
コンタクトにでも変えたのだろうか。しかもいつもは髪も無造作に後ろで結んでまとめていたのに今は結んでいない、緩やかにカーブなんかしちゃって整えている感じだ。雰囲気が少し垢抜けたような気がする。男の影が全くなく、きっとこのまま一生独身だろうとみんなが言っていたのに…。そういえば最近恋人ができたのではと噂を聞いたことがある。これなら噂も間違いではなさそうだ。
でも今はそんなことは関係ない。豪介は自分の教室に戻った。
梅雨の前のこの季節、日差しはポカポカとほどよく体を温めてくれ、校庭の木々を揺らして風も見える、午後の授業が始まるとこの爽やかな陽気が生徒を眠りに誘う。豪介たち3組の授業は再任用の爺ちゃん先生が受け持つ世界史の授業だった。その先生は黒板に向かってブツブツ言いながら年表を書いているのだが、その声がお経のように耳に優しい。まぶたが重くなり、声がどんどん遠ざかって行く。いいぞ、いい感じだ…。
『近藤先生、近藤先生…、さぁこい、近藤先生…』
スゥーと光が向こうからやってくる。
たくさんの生徒がこちらを見ている。あまりにたくさんの視線が急に飛び込んできて豪介はびっくりしたが、近藤先生とうまく繋がったようだ。先生は教壇に立ち、生徒を見渡しながら授業を進めている。
『どこだ、どこに牧園さんはいるんだ?』
自分の思い通りに視線が動かせないことにイライラする。じれったい。
『見たい見たい見たい』
近藤先生が生徒を指名して、その生徒が教科書を朗読していく。