知らない人からの知らないメッセージだった。無視をして勉強をしているとまたメッセージが入ってきた。
【中学の時に同じクラスだった文太だよ。忘れた?】
【文太だけど、忘れたの?】
 中学の同級生ではない、小さな中学校で同級生はみんな知っている。文太なんていなかった。全然知らない相手。誰かと間違えている。
【ねぇ、忘れたの?】
 しつこくメッセージが来るのは悪戯なのか、本当に誰かと勘違いしているのか。
【寝てる?】
 でも、でも、自分のことは知られていない。こっちも相手のことはわからない。面白そうだから、一回、一回だけ返事をしてみよう。
 【知らんし】と短く打って、返信した。しつこい男子を振っているようでちょっと気持ちよかった。
【だから、文太だよ】
 【って、誰?】もう一回返信してみた。
【うそ! オレみたいに格好いい男のこと忘れちゃったの?】
 やっぱり、自分のことを誰かと勘違いしている。となるとどうせ知らない赤の他人だ。こんなのは無視するに限る。
【あれ、あれれ?】
【おぉい】
【おぉい】
 メッセージを入力中のマークが現れては取り消され、またマークが現れては取り消された。何かまだメッセージを送ってくる気だ。ちょっとだけ付き合ってやろう。
 【文太なんて古風な知り合いいないし】
【古風ってなんだよ】
 【だって昭和じゃん】
【うるせぇ、ペチャパイ! 俺はお前のおっぱいの小さいのを忘れてないぜ、ぺったんこ!】
 自分の胸が小さいのをからかわれているような気がした。こうなったら男が喜びそうなことを送ってやろう。
 【私はDよD。ボンキュッボンよ、揉まれて大きくなったのよ】ひゃー、自分で打っていて信じられない。顔が赤くなる思いだ。
【本当かよ!】
 【たり前よ】
【鼻血だな】
 【文太君て、坊やなのね】
 普段絶対に言わないようなことを次々にメッセージに書いて送ってみた。
【あっ、言ったな…ちょっと待て】
 【何よ】
【驚かせてやる!】
 【何?】
【写真だよ】
 【変な写真送らないでよ】
【チンコの写真じゃねぇよ】
 【何よ?】
【今探してんだよ。ちょっと待て】
 気がつくとメッセージを送るのを楽しんでいた。自分でも分かっていた。これは、知らない相手だから。さらに相手も自分を知らない。だからできるんだ。
【あった、送る】