あれやこれや考えるが、そもそも自分は女子と付き合ったこともなく、女子を振った経験もないのだからどうしていいのかわからないのは当然だ。さんざん迷った挙句、【写真見せたけど、いまは付き合えないって】と、ちょっと柔らかく断りのメッセージを送ることにした。
 送信。
 自分だったら絶対に振らないのに、もったいないという気持ちと、ほんのちょっと自分が可愛い女の子を振ったような、女子を振るってこんな気持ちなのかもしれないという擬似体験を味わった。自分の心がかき乱されたので、今日は大原純や徳永伸也と繋がるのはやめておこう。
『せめて、今日の最後ぐらいはいい夢を見て終わりたい…』となると、やはり牧園ゆかりさんだ。
『牧園ゆかりさん…、牧園ゆかりさん…、牧園ゆかりさん…』

 徐々に明るくなると、目の前に牧園ゆかりがいた。豪介はびっくりする。本人の顔がアップでしかも目が合っている。一体誰の意識に入ったんだ? と思ったがどうやら牧園さんが鏡を見ているらしかった。
『なんて可愛いいんだ…』
 鏡を見てくれているとは嬉しい誤算だった。これで心置きなく顔を眺めることができる。なんだか自分が見つめられているようで恥ずかしい。
 牧園さんは手にハサミを持ち鏡に向かっていた。伸びてきた前髪を切ろうと思っているらしかった。
「よぉし、切るぞ」と、牧園さんはひとりごちて息を止め、前髪にハサミをいれた。少し濡れた前髪がパラパラと下に落ちていく。一旦大きく息を吐いて、段になっている前髪を見つめる。そしてさらに直線的に右から左へとハサミを動かしカットして行く。カットが終わったところでハサミを置いて、ドライヤーで前髪を乾かし始めた。そして牧園さんはマジマジと鏡を見た。
「やっちゃったぁ…」
 オンザ眉毛になっていた。
『可愛い…』
 乾いたときに前髪が上がることを考えて切っていなかったようで、思っていたよりもずいぶん前髪が短くなったようだ。それでも、「こりゃ、いけるかもしれない。うん、可愛い」と言って満更でもなさそうにつぶやいた。

 井上唯が机に向かって勉強していると突然携帯がブルっと振動した。誰かから連絡が来ることはほとんどない。もしかしたら牧園さんかもしれない、そう思って携帯を見た。
【よっ、久しぶり。文太だよ】