銀治郎からの連絡が来ることの期待が彼女たちを飛跳ねさせているのだろう。嫌な役を仰せつかったと思った。受け取ってしまった以上今更嫌だとも言えない。渡された紙切れをみると、連絡先と小さな顔写真が貼ってある。今見た三人のうちの誰かだろうけど、なんだか写真は小さくてよくわからない。
『なんだよ帰ってるところだったのに、すぐに渡さないといけないのか…。クッソー』
 頼まれてしまったからにはこの紙を渡さないといけない気がする。豪介は自分の真面目さが呪わしかった。久保田に「一緒に渡しに行こうぜ」というと「嫌だよ、ゴンスケが頼まれたんだからゴンスケが渡せよ」と言い残して駅に向かって歩き始めてしまった。
「ちょ、ちょっと待ってくれよ」と背中に声をかけるが久保田は振り向かない。豪介は仕方なく今来た道を学校に戻り始めた。
 自分と久保田の二人に声をかけたのはきっと声をかけやすかったのだろう。『断らない気の弱さを醸し出していたんだろうなぁ…』と思うと自分が嫌になった。
 靴箱に靴を入れ上履きを履く。足取り重く教室の前まで来ると、頼むからいませんようにと神様にお願いをして扉を開けた。
「ハァ…」
 思わずため息が出た。残念なことに銀治郎たちは残っていた。
『何をやってるんだこいつらは?』
 周りの空気をピンク色にしてまだあの三人で話をしていた。くっそーと思いながらも三人に近づいていく。
「今、駅に向かう途中で」と銀治郎たちに話しかける。
「何ゴンスケ?」と銀治郎が自分たちの話に割り込んできた豪介を不機嫌そうに見る。
「えっ、いや、だから、駅に向かう途中で三人の女子高生がいたんだ」
「それでなんだよ」
「これ」と言って豪介は紙切れを渡す。「連絡してくださいって」
 するとそれを聞いた銀治郎が途端に上機嫌になって、「ほら、どうだ。ね、どうでしょう。俺の魅力は他校にまで伝わってるよ」と、得意げになった。そして「可愛かったか?」と聞いてきた。
「えっ?」
「えっ? じゃねぇよ、可愛かったかって聞いてんだ?」
「わからないよ」
「わからないって何見てんだよ。可愛かったら連絡するけど、可愛くなかったら連絡しないに決まってんじゃん」
 そう言われて豪介は顔を思い出そうとするのだが、一瞬のことだったのでうまく思い出せない。その代わりに紙切れに写真が貼ってあったことを思い出した。
「そこに写真があるよ」