「いや、君がシフトに入っている時にね、レジのお金が合わなくて…。いやいや、君がネコババしたと言ってるわけじゃないんだよ」
 この女の子が店長の目を見据えている。店長がこの子をじっと見る。恐らく探るような目で見ているのだろう。
「そんなことしていません」女の子の声は凛としていた。
「気を悪くしないでね。もしかして一万円札と千円札を間違えてレジを打ってないかなぁと思って。心当たりはないかなぁ?」
「それぐらい分かります」
「でもほら、君はまだバイトに入って日が浅いから、もしかしたら間違えてるかもしれないと思って」
「間違えません」
「いや悪かった悪かった。仕事に戻っていいよ」
「失礼します」と言って、女の子は視線を外して店内に戻っていく。
「やっぱり間違えないかぁ…。とすると、誰かがやってるなぁ…」
 店長がパソコン画面を食い入るように見ている。シフト表には牧園ゆかり、有田律子、大原純、徳永伸也の名前があり、黄色のラインが引いてあった。
 その瞬間、見ていたものが真っ暗になった。
 豪介の乗っている電車がガタンと揺れて目を覚まし繋がりが切れたのだ。
『…可愛かった。いまの子は可愛かった』

6月4日 月曜日
 花田豪介の通う高校は街の中にある普通科の公立高校で、一応名ばかりではあるが進学校になっていた。ただ、大学や短大に行くのは全体の50%ほどで、残りは専門学校やほんの一部ではあるが就職する生徒もいる。そんな高校の2年生にはまだ受験の緊張感はなく、恋と友情を満喫する17歳が毎日を過ごしていた。
 チャイムが鳴ると学年主任でクラス担任の三島勇治先生がやって来た。三島先生はバツイチの先生で40の半ばごろだ。背が高く筋肉質の体型で、髪の毛もふさふさしていて白髪もないせいか年よりも若くみえる。中年のおじさんにありがちのメタボ体型でもないので、頑張っている方なのだろう。
「この前の中間テストの成績表を配布するので、名前が呼ばれたら取りに来るように」
 三島先生が一人一人名前を呼んで成績表を渡し始めた。あちこちで歓声や悲鳴が聞こえる。中には気の毒なほど固まって動かなくなるやつもいる。個別のテストは帰って来ているのでみんな自分の成績がどのくらいかわかっているはずなのに、それでも成績表の順位をみると一喜一憂してしまうのは高校生のサガなのだろう。
「ゴンスケ」