『彼女かぁ…』先ほどの道治との会話が大悟の気持ちに残っていた。大悟は壁にかけられている写真を眺める。
「彼女かぁ…」と、今度は声に出してつぶやいた。

 花田豪介は夕方7時にはご飯も食べ終え、すぐにお風呂に入って8時までには準備を整えた。
『これでいつ寝ても大丈夫だ』
 コンビニのレジが合わない原因は釣り銭間違いではなくおそらく誰かのネコババだろう。店長のあの時の口ぶりもどうやらそう考えているようだった。果たしてネコババの瞬間に繋がっている可能性はどれぐらいだろうか、犯人を突き止めるまでどれぐらい日数がかかるのか…。考えてみても見当はつかないが、まずは大原純と繋がり探ってみることに決めた。いつもは12時過ぎに寝るので、今日はかなり早い。
『大原純…、大原純…、大原純…』
 何度か寝返りを打っているうちに暗い世界の向こうから光が迫ってきた。

 光の洪水がはっきりした像を結ぶと携帯の画面を見ていた。携帯の画面だけが明るく、部屋の中は暗い。誰かとメッセージだけで会話している。
【遊びに来いよ】
 【でも、バイトいるでしょう?】
【大丈夫、今日は徳永だけだから】
 突然、光が入ってきて声が聞こえた。
「純さん、飲み物の商品補充お願いします」
 視線が動くと、そこにコンビニの制服を着た徳永伸也が立っていた。ということはうまく大原純の意識に入れたようだ。大原はまだバイト中で、バックヤードで仕事をサボって誰かとメッセージのやり取りをしている。ということなのだろう。
「お前やっとけよ」大原純が徳永伸也にいうと、徳永は不服そうな顔をしたが何も言わず店内に戻って行った。大原はまた携帯の画面に戻る。 
 【アイス食べたい】
【いいぜ。すぐ来いよ】
 【りょ!】
 どうやら大原は友達をバイト先に呼んだらしい。
 携帯のやりとりが終わると大原は店内に戻って行った。それにしても大原は働かない。仕事は徳永にほとんど任せて自分は時間がちょっとでもあると鏡に映った顔ばかり見ている。特に前髪の垂らし具合が気になる様で指で摘んでは角度を変えている。
 しばらくするとコンビニの自動ドアが開き、お客を知らせるチャイムがなった。大原がそちらを向くので豪介も入って来たお客を見ることが出来る。可愛らしい女子がやって来た。紺色のヒラヒラしたミニスカートとゆるい感じの薄いピンクのサマーセーターを着ている。