僕は犬のウンコだけど、特殊能力を持っている

 牧園ゆかりがその男を見る。自分の前に現れたのは2組の山形大悟だった。ゆかりは大悟を見てもあまりピンとこなかった。それほど印象にない男子で、目の前の体は大きいが気の弱そうなこの男が唯を追い詰めるようなことをしたようにはとても見えなかった。
『この子なの…』

 大悟は公園にやってきた時、自分を待っているのが3組のゴンスケと1組の牧園ゆかりだと知った。
『メッセージを送ってきたのはこいつらか』
 大悟の心にほんの少しだけ余裕が生まれた。得体のしれないやつから呼び出されたことにビクビクしていたが、呼び出したやつがゴンスケならそんなに焦る必要はない。あの末松典子に振られたような男だ。牧園ゆかりは可愛いけど喋ったことはない。だが所詮女子だ。大悟はゴンスケに向かって言った。
「なんだよ、変なメッセージ送りつけて、唯ちゃんのことなんて知らないよ」

 実は、豪介は内緒でもう一人の関係者を自分だけが知っている秘密で呼び出していた。絶対にバレないように身を隠してもらい、豪介の携帯電話を通話状態にして今からの会話をずっと聞いてもらうことにしていた。この公園の何処かにいてこっちを見ているはずだ。
 牧園さんが大悟を睨む。腕を組んだまま視線をそらさない。そのピリピリとした感情が伝わってくる。
 豪介は、『ここからは自分の役目だ』と自ら言い聞かせて、大悟を見据えると一歩前に出て口を開いた。
「じゃあ始めるよ」
 大悟が緊張したのがわかる。三人の間で空気が張り詰める。

「大悟は、英語と国語のテスト用紙をもらっているね」

 この言葉を聞いて大悟は明らかに顔色が変わった。
 ゆかりも豪介の言葉に困惑した。
「えっ、何? どう言うこと?」
 大悟は何も言わない。だがその目が揺れた。
「なぁ何か言えよ。図星を言われて何も言えないのかよ」
「そ、そんなことあるわけないじゃないか…」
「じゃあ、質問を変えるよ。唯ちゃんの机に文太のメッセージを入れたのは大悟だろう」
「…知らないよそんなの」
『素直に「はい」とは言わないか。だったら、否定させるのはどうだ』
 豪介は近藤先生の意識に入って恋人を聞かれた時にすぐさま否定した。
  〈それは、安部ちゃんですか?〉
  〈違うわよ〉あの時のことを思い出す。