僕は犬のウンコだけど、特殊能力を持っている

「食べないと元気でないわよ」
「うん帰ったら食べる」
「何、出かけるの?」
「うん。ちょっと出かけてくる」
「あら、寝ないの? 珍しい」と、嫌味を言われた。
「俺だっていつも寝ているわけじゃないよ」
「それにしてはこの前の期末テストも悪かったじゃない。もう、勉強してると思って期待してたのに」
「次は頑張るよ」
「ちょっとは勉強しなさいよ」
「わかってるよ。じゃあ」と言って家を出る。
 母親が普段通りでいることが不思議だった。今からのことを考えて自分はこんなに身構えているのに、そのギャップがおかしく感じられた。
『今日から普通に夜寝る生活が戻ってくる』
 豪介が空を見上げると、薄暗くどんよりとした天気で、雲が重く垂れ込め今にも雨が落ちてきそうだった。
『雨が降る前に終わるといいなぁ』と思う。

 普段は人の多い丸池公園も今日のこの天気の影響もあるのだろう、人っ子一人いなかった。大きな池も暗い空を映して鈍色の水面になっている。夏を待ちわびていた蝉が梅雨の終わりを待ちきれないのか鳴き始めているのが唯一の賑やかしだ。
 しばらくすると、公園の向こうから牧園さんが近づいてくるのが見えた。豪介は牧園さんに軽く手をあげる。牧園さんもそれに応じて手を振る。牧園さんが小走りにやってきた。
「ゴンスケわかったの?」
「うん」
「誰なの?」
「今から来るから」
「うん」
 二人はすぐ後ろが池になるレンガ敷の広場の端っこに立って待つことにした。ここなら待っていることがすぐにわかる。もしこれがデートだったらと思うが、さすがに今日は身構えているせいか牧園さんが隣にいてもいつものように気持ちが高揚しない。牧園さんも同じようでかすかに緊張している雰囲気が伝わってくる。その緊張を少しでも和らげようとしてなのか、牧園さんが話しかけてきた。
「この前ね、唯ちゃんのお見舞いに行ったの」
 豪介は牧園さんの顔を見た。自分を見る目が優しい。
「そうしたらちょっと元気になってた」
「よかったね」
「うん。ゴンスケありがとうね」
 そういうと、牧園さんの顔はまた険しい顔に戻った。
 公園の入り口の方、木の陰の向こうで動く影があった。自転車がこちらに向かってやってくる。
「来たよ」
 ゆっくりやってきた自転車が二人の前で止まる。