僕は犬のウンコだけど、特殊能力を持っている

「あぁ、俺だけど、大原純」
 その声を聞いて大悟の心臓がキューっと縮む。さっきまでの楽しい気持ちが嘘のように霧散した。
「あっ、はい」
「木曜日に電話した件だけど」
「はい」
「黙ってて欲しいよね」
「はい」
「それじゃ、明日の夕方に10万取りにいくから」
「あっ、はい」声が震える。手にじっとりと汗をかく。
「丸池公園って知ってる?」
「はい」
「そこね。俺その日、女の子と飲みに行くから夕方の6時ね」
「はい」
「あっ、ちゃんと用意できてるよね?」
「はい」
「頼むよ、飲みに行くんだからね。それじゃ、忘れるなよ」
 と言うと電話は一方的に切れた。もしかしたらこのまま何事もないかもしれないと思っていたけど、そんなことはなかった。

 豪介は昼も、夜も、眠くなくても目を瞑り、根性で眠っていた。
 そしてこの日、ようやく豪介は目を開けた。
『もう十分だ、日曜日に片をつけよう…』

7月15日 日曜日
 朝、山形大悟は起きるとすぐに携帯をチェックした。まだ、中村芽衣ちゃんからの新しいメッセージはなかった。それでも、大悟の心の中に芽衣ちゃんがいることに変わりはない。【おはよう】とメッセージを送る。
 この時間、母親はすでに仕事に出かけていた。正看護師という仕事柄日曜日であろうと関係ない。大悟は顔を洗い、着替えて、用意してある朝食を食べる。窓の外を見ると雨が降り出しそうな雲行きにベランダに干しっぱなしにしてある洗濯物を取り入れた。一つ一つを畳んでタンスに入れていく。それが終わると、部屋の掃除を簡単に済ませた。そして自分の机の引き出しを開ける。10万円を封筒に入れて机の上に置く。
『これさえ渡してしまえば終わるんだ』
 その時、携帯がぶるっと振動した。メッセージが入ったお知らせだった。大悟はもしかしたら芽衣ちゃんから返事が来たのかもしれないと思って慌てて携帯を見た。
【唯ちゃんの机に文太のメッセージを入れたのはお前だ。すぐに丸池公園に来い。無視をしたら全ての秘密をバラす。いいかお前が秘密にしていること全てだ】

 花田豪介はメッセージを大悟に送信すると、牧園さんにも「今から丸池公園に来て」とメッセージを送った。そして他にももう一件メッセージを送ると、豪介は着替えをして階下に降りた。
 朝食の準備をしていた母親が「あんた、ご飯は?」と呑気に声をかける。
「いらない」