井上唯が手に持っていた本を傍らに置き、ゆかりを認めて微笑んだ。体を起こして背中に枕を当てベッドにもたれかかっている。唯の顔色はずいぶん良くなっていた。
病室内はまだ規定の室温に到達していないのだろう、エアコンのスイッチは入っていない。窓が開けられていて、夕方のちょっと涼しい風がカーテンを揺らしている。アイスの冷たさが心地いい。窓から見える中庭はすっかり夏の様相だ。
「もう夏だね」
「うん」
「元気そう」
「日曜日に退院するの」
「よかった」
「私いつか元気になれるかな?」
「なれるよ」
「忘れられる?」
ゆかりはちょっと考えた後、「慣れちゃうんだ。忘れられないけど」と言った。
「牧園さんも辛いことあったの?」
「あったよ」
「…」
「この世の中でひとりぼっちになって、すごい孤独になって。自分だけ取り残されて、急にみんなについていけなくなって、黒い壁に周りを囲まれている気がしたの」
「それで」
「でも、その時一人じゃなかったから」
「…」
「一人だと思っていたのは、私が一人だと思っていただけ。本当は手を差し伸べてくれる人がたくさんいたの。お父さんやお母さんや友達。今は唯ちゃんも」
「私も?」
「当たり前じゃん」
「…」唯は涙を流した。
「唯も一人じゃないから」
「うん。牧園さんありがとう」
「うん…」
唯は遠くを見つめながら静かにポツリポツリと話し始めた。
「最初は間違いメッセージだと思ったんだ…」
どうして文太とやりとりを始めたのか…。どれほどそのやりとりが楽しかったのか…。そしてそれが裏切られた悲しみ…思いつくまま唯は話した。
ゆかりは口を挟むことなく唯の話を聞いた。
「唯ちゃん、メッセージを送っていた文太と、机の中にメッセージを入れた人は別人なんじゃないかな」
唯は小さく驚いた。
7月14日 土曜日
山形大悟は誰もいないリビングに座り母親が作った夕ご飯を食べていた。いつもだったら独りぼっちの孤独を感じたが、テーブルの上に置いた携帯電話が見えない糸で繋がっている気がして心を満たしていた。ご飯を一口食べると携帯を触って画面を明るくしてメッセージを見る。おかずを口に運ぶ。また画面が暗くなると、携帯を触って画面を明るくしてメッセージを見る。
【1位をとったよ。友達になってくれる?】
【いいよ】
病室内はまだ規定の室温に到達していないのだろう、エアコンのスイッチは入っていない。窓が開けられていて、夕方のちょっと涼しい風がカーテンを揺らしている。アイスの冷たさが心地いい。窓から見える中庭はすっかり夏の様相だ。
「もう夏だね」
「うん」
「元気そう」
「日曜日に退院するの」
「よかった」
「私いつか元気になれるかな?」
「なれるよ」
「忘れられる?」
ゆかりはちょっと考えた後、「慣れちゃうんだ。忘れられないけど」と言った。
「牧園さんも辛いことあったの?」
「あったよ」
「…」
「この世の中でひとりぼっちになって、すごい孤独になって。自分だけ取り残されて、急にみんなについていけなくなって、黒い壁に周りを囲まれている気がしたの」
「それで」
「でも、その時一人じゃなかったから」
「…」
「一人だと思っていたのは、私が一人だと思っていただけ。本当は手を差し伸べてくれる人がたくさんいたの。お父さんやお母さんや友達。今は唯ちゃんも」
「私も?」
「当たり前じゃん」
「…」唯は涙を流した。
「唯も一人じゃないから」
「うん。牧園さんありがとう」
「うん…」
唯は遠くを見つめながら静かにポツリポツリと話し始めた。
「最初は間違いメッセージだと思ったんだ…」
どうして文太とやりとりを始めたのか…。どれほどそのやりとりが楽しかったのか…。そしてそれが裏切られた悲しみ…思いつくまま唯は話した。
ゆかりは口を挟むことなく唯の話を聞いた。
「唯ちゃん、メッセージを送っていた文太と、机の中にメッセージを入れた人は別人なんじゃないかな」
唯は小さく驚いた。
7月14日 土曜日
山形大悟は誰もいないリビングに座り母親が作った夕ご飯を食べていた。いつもだったら独りぼっちの孤独を感じたが、テーブルの上に置いた携帯電話が見えない糸で繋がっている気がして心を満たしていた。ご飯を一口食べると携帯を触って画面を明るくしてメッセージを見る。おかずを口に運ぶ。また画面が暗くなると、携帯を触って画面を明るくしてメッセージを見る。
【1位をとったよ。友達になってくれる?】
【いいよ】

