唯は怪訝な顔でゆかりを見た。
「だって、1年の時って知らない人だらけだったでしょう、最初はみんな知らないんだからさ、おはようって言ったもん勝ちよ。知らなくても話をすることが大事なのよ」
「そう? そうなんだ。そんな風に考えたこともなかった」
「だって、一人でいたら一人のままじゃん。手を出さないと」
そう言って牧園ゆかりはおどけた感じで手を出したり引っ込めたりした。
「手を出すんだ…」
「そうよ。わたしなんてウニみたいにいっぱい手を出してるよ」
二人はその後、他愛もない話をして気がつけば駅にきていた。駅の前には小さなたこ焼き屋があって、たこ焼き、たい焼き、かき氷、ソフトクリームなどが売られている。この店はここで商売を始めて30年以上になり、近隣の中学生や高校生たちの聖地になっていた。お店の中には小さいながらもイートインのスペースがあり、今日もこの店は学生たちで賑わっていた。一応学校の規則では帰り道の買い食いは禁止となっているが誰も守っている者はいない。時には先生がここで生徒の相談を受けたりしていた。
井上唯は「ソフトクリーム、一緒に食べよう」この言葉が喉まででかかったが口に出すことができなかった。本当は牧園さんと一緒にソフトを食べながらもっと他愛のない話がしたかったし、本当の本当は男子の話もしたかった。今度こそ、勇気を出して誘ってみよう、きっと牧園さんは一緒に行ってくれる。そう思いながら二人で駅の改札を抜けると、二人は同じ西行きの下りの電車に乗った。
ゆかりは四つ先の駅、唯はさらにそこから六つ先の駅で降りる。
唯は自分の通っていた中学から同じ高校に行った友達がいなかったので、いつも教科書を見ているだけで一つ一つの駅までが長く感じられた。でもこうやって二人で話をしているとあっという間に牧園さんの降りる駅が近づいてきた。
電車が止まると、「またね」と言って牧園さんは降りて行った。ゆかりが降りたこの駅で、複線だった線路は単線となり、乗客もぐっと減る。唯は一人になると参考書を開いた。目線はもう前を向くことはない。
電車が動き始めるとすぐに家々が少なくなり、田んぼの中を走り、ちょっと家々が見えてきたら駅になり、また田んぼの中を走る。三つほど駅をすぎると海沿いに出て海岸線を走り、トンネルをくぐる。そしてまた田んぼとなり、家々が見えてくる。
「だって、1年の時って知らない人だらけだったでしょう、最初はみんな知らないんだからさ、おはようって言ったもん勝ちよ。知らなくても話をすることが大事なのよ」
「そう? そうなんだ。そんな風に考えたこともなかった」
「だって、一人でいたら一人のままじゃん。手を出さないと」
そう言って牧園ゆかりはおどけた感じで手を出したり引っ込めたりした。
「手を出すんだ…」
「そうよ。わたしなんてウニみたいにいっぱい手を出してるよ」
二人はその後、他愛もない話をして気がつけば駅にきていた。駅の前には小さなたこ焼き屋があって、たこ焼き、たい焼き、かき氷、ソフトクリームなどが売られている。この店はここで商売を始めて30年以上になり、近隣の中学生や高校生たちの聖地になっていた。お店の中には小さいながらもイートインのスペースがあり、今日もこの店は学生たちで賑わっていた。一応学校の規則では帰り道の買い食いは禁止となっているが誰も守っている者はいない。時には先生がここで生徒の相談を受けたりしていた。
井上唯は「ソフトクリーム、一緒に食べよう」この言葉が喉まででかかったが口に出すことができなかった。本当は牧園さんと一緒にソフトを食べながらもっと他愛のない話がしたかったし、本当の本当は男子の話もしたかった。今度こそ、勇気を出して誘ってみよう、きっと牧園さんは一緒に行ってくれる。そう思いながら二人で駅の改札を抜けると、二人は同じ西行きの下りの電車に乗った。
ゆかりは四つ先の駅、唯はさらにそこから六つ先の駅で降りる。
唯は自分の通っていた中学から同じ高校に行った友達がいなかったので、いつも教科書を見ているだけで一つ一つの駅までが長く感じられた。でもこうやって二人で話をしているとあっという間に牧園さんの降りる駅が近づいてきた。
電車が止まると、「またね」と言って牧園さんは降りて行った。ゆかりが降りたこの駅で、複線だった線路は単線となり、乗客もぐっと減る。唯は一人になると参考書を開いた。目線はもう前を向くことはない。
電車が動き始めるとすぐに家々が少なくなり、田んぼの中を走り、ちょっと家々が見えてきたら駅になり、また田んぼの中を走る。三つほど駅をすぎると海沿いに出て海岸線を走り、トンネルをくぐる。そしてまた田んぼとなり、家々が見えてくる。