僕は犬のウンコだけど、特殊能力を持っている

 今まで久保田は豪介と一緒に帰ることがほとんどだったが、女子と帰る時間がこんなにも自分に彩りをもたらすとは思ってもみなかった。スクールシャツを突き上げる大きな胸や、うっすらと透けて見える肌着のラインや、微かに漂う甘い香りが久保田の見る毎日の景色をピンク色に変えていた。
 かつてゴンスケと共にデスった典子の岩のようだと思っていた顔も彫りの深いはっきりした顔立として『ちゃんと可愛い』と自覚できるようになっていた。こんなに可愛いのに、今までの自分はどうかしていた。ゴンスケと一緒になって悪口を言っていた過去の自分が腹立たしい。あの頃の自分を思い出すと、恥ずかしさと、罪悪感で心がのたうちまわり『俺のバカ!』と過去の自分を責め、心の中で典子に謝罪した。
 ついこのあいだの日曜日は初めてデートというものもした。そのデートではショッピングモールにある肝試しに入った。典子は怖いと言ってごく自然に自分の腕を掴んできた。すると、絡まる腕や太ももに典子の体温をじんわり感じてその部分が暖かくなった。女子の体温というものを初めて体で感じた。さらに典子の大きな胸が久保田の腕に当たり、今まで味わったことのないような『むにゅ』っとしたなんとも言えない感触を知った。それは久保田の頭に強烈に刻まれたおっぱいの魔力となった。
 そんなことを思い出しながら今日も一緒に帰る幸せを噛み締める。
 そんな久保田の顔を見て典子が尋ねた。
「どうしたの?」
「何が?」
「嬉しそう」
「まぁね」
「私も」
 夏を間近にしてベタつく空気がまとわりつき、横に並んで歩いているとお互いの汗ばんだ手の甲が触れる。久保田の意識が手に集中する。
『女子と付き合い始めたら手を繋いで一緒に帰りたい』それが久保田の夢だった。学校帰りに手を繋いで歩くのはやっぱり大きな勇気がいる。クラスメイトだけではない通行人からも見られることになる。その気恥ずかしさに勝たなければ手は繋げない。でも。
『手を繋ぎたい』
 人のいない肝試しは典子から腕を組んできてくれた。今度は男である自分がリードしなければならない。交差点で立ち止まった。
「渡らないの?」
「今日は、向こう歩こうよ」と言って交差する信号が青になるのを待つ。緊張して手が微かに震える。信号が変わり、反対側が青になった。
「こっち」久保田が典子の手を、取った。
『柔らかい』