しばらくすると唯から微かな寝息が聞こえて来て、それを機に唯の手を布団に入れるとその場を立ち上がった。病室の外に出るとソファーに唯の母親が座っていて「今日はありがとうね」と声をかけてきた。「…私が帰って来たらお風呂場で手首を切っていて、すぐに救急車を呼んで、怪我自体は大したことなかったんだけど、傷口からばい菌が入ったみたいで2、3日高熱が続いてたの。熱が引いて食事を取れるようになったら退院できるだろうって。唯は私たちに反抗したこともないし、ずっといい子で、勉強もできて、まさかこんなことになるなんて、唯になにがあったのか私全然知らなくて…」と言って小さく小さくすすり泣いた。母親は娘に何が起こったのか聞くことの怖さと、何も知らなかった自責の念で押しつぶされそうになっていた。ゆかりは母親の隣でただただ座っていた。
7月11日 水曜日
朝の職員会議に集まった先生達は沈痛な面持ちで校長先生の報告を聞いていた。
「今回のことは井上唯さんのご家族の希望を尊重して、これ以上の犯人探しはしないこととします」
すると三島先生が「ですが校長先生、いじめの犯人はこの学校の中にいます、おそらく2年生の中です。このまま放っておいていいのでしょうか?」と発言した。
「三島先生のおっしゃることもわかりますが、ご家族の方の希望ですから」と校長先生が念を押すように言うと、さすがの三島先生もそれ以上は食い下がることもなく、近藤先生も他の先生も口を開かなかった。
「それと、お母様から、転校の申し出がありました」
先生たちも釈然としない気持ちはあったのだろうが、いじめの犯人を探すことや保護者説明会の面倒を考えるとこのまま家族の要望で幕引きになることにほんの少しホッとしたところもあった。
『家族の希望なら仕方ない』
これで何も解決しないまま、唯の自殺未遂の原因を探すことなく学校としては終わったことになった。
久保田治は人生最高の浮かれた毎日を楽しんでいた。学校ではすれ違うときに「典子」「久保田くん」とお互い目で合図を送り、家ではずっとメッセージのやり取りをしていた。そしてなんと言っても一緒に帰る時の二人の時間が最高だった。
「典子帰ろうか」と言えば、
「うん」と返ってくる。
「久保田くん一緒に帰ろう」と誘われれば、
「あぁ」と返事をする。
7月11日 水曜日
朝の職員会議に集まった先生達は沈痛な面持ちで校長先生の報告を聞いていた。
「今回のことは井上唯さんのご家族の希望を尊重して、これ以上の犯人探しはしないこととします」
すると三島先生が「ですが校長先生、いじめの犯人はこの学校の中にいます、おそらく2年生の中です。このまま放っておいていいのでしょうか?」と発言した。
「三島先生のおっしゃることもわかりますが、ご家族の方の希望ですから」と校長先生が念を押すように言うと、さすがの三島先生もそれ以上は食い下がることもなく、近藤先生も他の先生も口を開かなかった。
「それと、お母様から、転校の申し出がありました」
先生たちも釈然としない気持ちはあったのだろうが、いじめの犯人を探すことや保護者説明会の面倒を考えるとこのまま家族の要望で幕引きになることにほんの少しホッとしたところもあった。
『家族の希望なら仕方ない』
これで何も解決しないまま、唯の自殺未遂の原因を探すことなく学校としては終わったことになった。
久保田治は人生最高の浮かれた毎日を楽しんでいた。学校ではすれ違うときに「典子」「久保田くん」とお互い目で合図を送り、家ではずっとメッセージのやり取りをしていた。そしてなんと言っても一緒に帰る時の二人の時間が最高だった。
「典子帰ろうか」と言えば、
「うん」と返ってくる。
「久保田くん一緒に帰ろう」と誘われれば、
「あぁ」と返事をする。

