学校から駅へと向かう道、中間テスト1位の井上唯はいつものように一人で、みんなよりも少し足早に帰っていた。高校の前の道は車通りが少なく、学生が横に広がって喋って帰れるが、国道にぶつかり駅の方面へ曲がると交通量は多くなり歩道も狭くなる。前後を見れば友達同士で帰っている者や、きっと付き合っているのだろうカップルで帰っている者もいる。一人で帰っていて寂しくないといえば嘘になるが、だれかと一緒に帰って気を遣うのも遣われるのも自分が疲れてしまう。だから声を掛けなくてもいいように、掛けられることがないように、足早に帰ることが癖になっていた。今日もいつものように帰っていると後ろから声を掛けられた。
「唯、一緒に帰ろう!」
 ビクッとして後ろを振り向くと牧園ゆかりがいた。走ってきたのだろう、少しだが息が切れている。
「あっ、牧園さん」唯が一人で歩いているとゆかりはいつも声をかけてきてくれた。牧園さんとだけは他の女子のように一緒にいて息苦しさを感じず、一緒に帰ることが楽しい。
「唯、歩くのが速いんだもん、追いつくの大変だったよ」
 中学は別々だったが、高校に入ってから一番の友達になった。と言っても、牧園さんは友達がたくさんいるから、自分はたくさんいる友達の一人に過ぎないのだろうが、唯から見れば数少ない友達の中でも一番大切な友達だった。しかも同じ女子である自分から見ても牧園さんは可愛く、明るく、魅力に溢れている。牧園さんといると自分も可愛くなった気がして一緒に歩くだけでも楽しい。本当はもっと学校の中でもお喋りがしたかったのだが、牧園さんには友達が多くてなかなか喋れない。だからこうやって帰り道に話しかけてくれることが本当に嬉しかったし、内心話しかけてくれることを期待していた。
「唯、また1位だったねぇ」
「うん。私、勉強ぐらいしかできないから」
「すごいよ、私には到底無理だ」
「牧園さんだっていつも20位以内に入ってるでしょう。勉強すればもっと順位上がるよ」
「私はもう無理、これが精一杯」
「ゆかりバイバイ」
 二人で歩いていると自分たちを追い抜いて他のクラスの女子が帰って行く。そんなときゆかりはよく声をかけられる。
「牧園さんはすごいよ、可愛いし、友達もたくさんいるじゃない。私、そういうのは苦手だから」
「友達なんてのはさぁ、自分からおはようって言ったらできるのよ」