ゆかりは六人部屋の名札を確認して唯の名前を見つけると扉を軽くノックして開けた。白く清潔な、けど無機質な暖かみのない部屋の中が六つのカーテンで仕切られている。夕食の途中なのか、卵スープの甘い香りが部屋に充満し、そのほかにも消毒や薬やいろんな匂いが混ざっていた。
『昔よく嗅いだ匂いだ』
ゆかりは一番奥の一画に進み、「唯」と小さく呼びかけると、カーテンが揺れた。出て来たのは唯の母親だった。
「今、寝てるの」
唯の顔色は白く、掛け布団がふわりと掛けられていて、それがあまりにもふわりと掛けられているので一瞬死んでいるのではないかと思った。唯は寝ている顔ですら寂しそうだった。
ゆかりは慌てて「同じ学校の牧園ゆかりです」と簡単に自己紹介をする。すると母親は「あぁ、あなたが。唯の母親です」と言うと、自分が座っていた椅子を勧めてくれた。ゆかりがその椅子に腰掛けると、母親は小さく「唯」と声をかけた。唯が薄く目をあける。母親は唯が起きたことを確認すると「ちょっとジュースでも買ってくるわね」と言ってその場を離れた。
唯の手が布団から出てゆかりの手をそっととる。その手に白い包帯が巻かれ、手はびっくりするぐらい冷たかった。
「牧園さん、ごめんね」小さく消え入りそうな声だった。唯はそれだけ言うと、また目を閉じた。閉じた唯の目から涙が流れた。
唯の受けたショックの大きさを考えると、「早く元気になってね」とは言えず、「頑張ってね」や、「みんな待ってるよ」なんて慰めも言えない。ゆかりは何を話したらいいのかわからなかった。ただ、そばにいてずっと手を取っていた。自分がかつてそうしてもらったように。
テレビの音が漏れ聞こえてくる。向かいのカーテンからお見舞いの家族だろう明るい声も聞こえる。病室内には病室内の日常がある。なのに唯はベッドに横になり傷ついた心が癒えようとはしていない。ここだけ取り残されたような孤独があった。このアンバランスさはなんだろう。唯だけが傷ついている。
『昔よく嗅いだ匂いだ』
ゆかりは一番奥の一画に進み、「唯」と小さく呼びかけると、カーテンが揺れた。出て来たのは唯の母親だった。
「今、寝てるの」
唯の顔色は白く、掛け布団がふわりと掛けられていて、それがあまりにもふわりと掛けられているので一瞬死んでいるのではないかと思った。唯は寝ている顔ですら寂しそうだった。
ゆかりは慌てて「同じ学校の牧園ゆかりです」と簡単に自己紹介をする。すると母親は「あぁ、あなたが。唯の母親です」と言うと、自分が座っていた椅子を勧めてくれた。ゆかりがその椅子に腰掛けると、母親は小さく「唯」と声をかけた。唯が薄く目をあける。母親は唯が起きたことを確認すると「ちょっとジュースでも買ってくるわね」と言ってその場を離れた。
唯の手が布団から出てゆかりの手をそっととる。その手に白い包帯が巻かれ、手はびっくりするぐらい冷たかった。
「牧園さん、ごめんね」小さく消え入りそうな声だった。唯はそれだけ言うと、また目を閉じた。閉じた唯の目から涙が流れた。
唯の受けたショックの大きさを考えると、「早く元気になってね」とは言えず、「頑張ってね」や、「みんな待ってるよ」なんて慰めも言えない。ゆかりは何を話したらいいのかわからなかった。ただ、そばにいてずっと手を取っていた。自分がかつてそうしてもらったように。
テレビの音が漏れ聞こえてくる。向かいのカーテンからお見舞いの家族だろう明るい声も聞こえる。病室内には病室内の日常がある。なのに唯はベッドに横になり傷ついた心が癒えようとはしていない。ここだけ取り残されたような孤独があった。このアンバランスさはなんだろう。唯だけが傷ついている。

