僕は犬のウンコだけど、特殊能力を持っている

 心を落ち着かせる。周りから聞こえてくる音はノートに文字を書くシャーペンの音と、本をめくる音、シャリシャリ、ペラペラ、カリカリ、カツカツ、バサッ…物語性のない音の連続が豪介を眠りに引き込んで行く…。
『蔵持銀治郎…、蔵持銀治郎…、蔵持銀治郎…』

 光の点に向かってスゥーと意識が引っ張られる。目の前に辛島優斗と小林美咲がいた。場所も教室内のようだ。うまく蔵持銀治郎と繋がった。
「まさか、典子が久保田のことが好きだったとは思わなかったよな」銀治郎があの時のことを思い出してニヤニヤしているのだろう、声の調子からそれとわかる。
「あぁ、あれは笑ったな」と優斗も応じる。おかげで豪介はまたあの日のことをまざまざと思い出す羽目になってしまった。
「最高だった」
「付き合ってください。はい。…だもんな」
「しかも、大きな胸ですって、最高だよ、あいつ最高!」
 豪介は銀治郎たちが久保田を本当に見直していることに軽く嫉妬を覚えた。
「そりゃそうと、あの告白の時のゴンスケの顔見たかよ」と銀治郎はあの時を思い出してまた笑った。
『見られていた。…あの時の僕を』
「いいや」
「めちゃめちゃ面白かったんだぜ」
「なんだか泣きそうな顔しててよ。信じられないものでも見てるような顔しちゃってさ、なんか手なんかこうブルブル震えてるんだ」
「そりゃ無理ないわよ。典子に振られて、しかも親友の久保田君が好きなんて」と、美咲もあの時のことを思い出してクスクス笑っている。
「俺だったら自殺ものだな。あぁあ携帯で動画撮っとけばよかったなぁ」
 自分の悪口を聞くのは気持ちのいいものじゃない。豪介は途端に心が折れてしまった。もう今日は諦めることにして目を覚まそうとした時に、「銀治郎君、新しい彼女はできたの? 朝あんなこと言ってたけど」と美咲が話題を変えた。自分の悪口は悪口でさえ長続きしなかった。遠くに聞こえたその会話で、豪介は再び銀治郎の目と耳に集中した。すぐに声がはっきりと聞こえてくる。
「なんか色々来ても断るのも大変だし。一人はキープしたからさ」
「へぇ、そうなんだ」
「それがこいつ、牧園のこと忘れられないんだよ」
「普通俺のこと振るかよ。いい女なんだけどなぁ。牧園ゆかりとだったら夏が楽しめたんだけどなぁ。あぁもったいねぇ」
「だからこいつ悪いんだぜ、牧園ゆかりの合成ヌードをばらまいてデスってやんの」