僕は犬のウンコだけど、特殊能力を持っている

 待ち合わせていたことが間違いないことだとは思いつつ、本当に牧園さんが現れるのか半信半疑だった。でもこうやって現れると、ことの重大さを認識する。これはデートではない。わかっている、わかっているが、心が反応してしまう。
「ゴンスケ、待った?」
「うぅん、全然」
『ゴンスケ待った? うぅん全然、だって…』
 これはまるで恋人同士の会話だ。誰かにこの現場を見られたいと願う。久保田が見たらどう思うだろう。あいつはどんな顔をするだろう、『勝った』と思うが、そんな浮かれたことを考えている時ではない。
「それじゃ、入ろうか」と真剣な顔をして牧園さんの前を歩く。

 図書室はほこり臭い本の香りと、生徒たちの小さな喋り声と、シャーペンを動かす音で満たされていた。外光が入らないように分厚いカーテンが閉められていたが、LEDのあかりが隅々まで届き室内は明るい。運動場から響く部活の声と、遠くの音楽室から漏れてくる吹奏楽部の楽器の音がかすかに届いている。
 図書室には4人で座れる勉強用の机がいくつかあり、数人の生徒が自主学習をしていた。学校に図書室があるのは知っていたが、こうやって入るのは初めてだった。物珍しくてキョロキョロしてしまう。すると牧園さんが誰も座っていない奥の机を見つけ「ゴンスケ、あそこ」と指さした。
 机に二人で並んで座り、かばんから勉強道具を取り出し、本を立てその本に隠れるようにして寝る準備をする。ここなら寝ていてもあまり不自然じゃない。準備は整った。隣を見ると牧園さんが同じように本を立て顔を下げてこちらを見ていた。
 ドキリと心臓が反応する。
『可愛い…』
 いつまで経っても牧園さんの可愛さに慣れない。それでも平静を装った。
「それじゃ、僕は今から銀治郎と繋がるからね。あいつらまだ教室にいて喋ってたから。何かわかったらすぐにこっちに帰ってくるから」
「ゴンスケ、そんなにすぐに繋がれるの?」
「うん、そのために昨日は寝てないから」
「ありがとう」
 牧園さんが自分にありがとうと言ってくれた。でもそのことはあまり考えないようにする。考えすぎたら牧園さんの意識に入ってしまう、それだけはもう二度としてはいけないと心に誓っていた。
「行って来る」と小さな声で伝えると腕の中に顔を埋めるようにして目を閉じた。牧園さんが小さく「気をつけて」と言ってくれた。
『さぁて、何が出て来るかな』