高校2年で同じクラスになり、お互い運動神経が悪くて親近感を持った。足は久保田の方が少し早かったが、球技はほんのちょっと豪介の方がうまかった。何となく話をするうちに頭の良さも似たり寄ったりだということがわかってきて、さらにお互い何かにつけてセンスがないことも一緒だった。豪介は久保田を見ていつも安心していた。久保田は久保田で豪介を見て安心していた。お互いイケてないもの同士だと自覚しているが、内心相手よりも自分の方がまだマシだと思っている。
「朝さぁ、銀治郎たちに絡まれてなかった?」
「あぁ。ちょっとね」
「なんだって?」
「好きな子がいるかとかなんとか?」
「何て答えたんだよ」
「いないって」
「本当?」
「そんなわけないじゃん」
「そうだよな、誰が好きなんだよ?」
「いいじゃん」
「いいじゃん、教えろよ」
「俺が教えたら久保田も教えるのかよ?」
「あぁ、いいよ」
「それじゃ一斉に言おう」
「せぇの」
「…」
「なんだよ久保田言えよ」
「お前こそ言えよ」
「わかったよ」
「俺もわかったよ」
「今度こそ同時に言おう。いいな?」
「いいよ」
「せぇの」
「牧園ゆかり」
 二人が同じ名前を言った。そして、二人とも笑った。豪介は久保田の身の程知らずさを笑い、久保田も豪介の身の程知らずさを笑った。
「でもよ、俺は絶対彼女を作るぜ」と久保田は真剣な顔をして言った。
「お前、当てがあるのか?」
「ない」
「なんだ」
「でも作る。絶対だ」
 久保田が彼女を作ると宣言した。豪介は久保田に彼女ができるのなら、自分にも彼女ができるかもしれないと思った。
『俺たちを好きになってくれる人は一体どんな人だろう…』
 豪介は銀治郎から典子がお似合いだと言われたことは久保田には黙っておいた。