6月3日 日曜日
 よく晴れた日曜日の夕方、花田豪介は映画を見た帰り一人で電車に乗っていた。電車の規則正しく心地よい揺れに豪介の意識が次第におぼろげになっていく。
『眠い……』

 …暗闇の中に小さな光の点が現れる。点だった光が徐々に大きくこちらに近づき、光に包まれた瞬間一気に視界がひらけていく。夢の中で誰かと繋がる時はいつもこうだ。
 光の中から現れたものは…パソコンの画面だった。名前と数字が並んでいる。勤務表らしきものを見ている。視界が揺れて移動し始めた。きっと立ち上がって歩き始めたのだろう。見ているこの場所は…、狭い倉庫みたいだ。扉を開けると明るい店内になった。たくさんの商品が並んでいる。
『そうか、ここはどこかのコンビニだ』豪介がそう確信すると、鏡にこの人物が写った。
『げっ、ひどいおっさんだ』
 そこには顔の長いほうれい線の深く刻まれた貧相なおっさんの顔があった。このおっさんが店内を移動し整理されていないお菓子や雑誌を並べ直しながら進んでいく。この視界が窓の外の景色を見た。ガラスの向こうには田んぼが広がりその奥には山の連なりが見えた。
『あれ、見たことのある景色だ』
 一瞬だったが確かにこの景色は見たことがある、と思った。多分自分も行ったことのあるコンビニで、このおっさんにレジをしてもらった時にでも目があったのだろう。だからこのおっさんと繋がったに違いない。と言ってもこのおっさんに興味はない。繋がりを切ろうとした時、「ちょっと、ちょっといいかな」と言ってこのおっさんがモップがけをしている後ろ姿の女性スタッフに声をかけた。
「なんですか、店長」
 この女性が振り向いた。

 それはとてつもなく可愛い子だった。

 ドクンと心臓が跳ねた。
『うおぉぉぉぉ、可愛い』
 豪介はもう少しこのおっさんの目と耳に付き合うことにした。
 おっさんが従業員以外立ち入り禁止の扉をあけてバックヤードに引き返すとすぐに先ほどの女性がやってきた。
「失礼します」
 豪介はあまりの可愛さに見とれてしまった。だが、この視線は自分の視線ではない。店長と呼ばれたおっさんの視線だ。自分の意思には関係なく視線が動く。店長がパソコンの画面を見ながら尋ねた。
「こんなこと、聞くのも悪いんだけど…、レジのお金が合わないんだよ」
「はい?」