この青く澄んだ世界は希望の酸素で満ちている




 時刻は七時を回ったところ。

 私と空澄(あすみ)は。
 いろいろな話をしながら。
 食べている、コンビニで買ってきた食べ物を。





 そうしているとき。
 思った、不思議だと。



 溜まっている、睡眠不足からくる疲労が。

 それなのに。
 食べて飲んで話をしている。
 空澄と一緒に。


 どこに残っているのだろう。
 そんなエネルギーが。





「そうだ、
 彩珠(あじゅ)の部屋は
 一室、空きがあるから、そこに」


 空澄(あすみ)が言うには。
 その空き部屋は。
 来客用として使用しているとのこと。



 そうして。
 空澄は。
 案内してくれる、来客用に使用している空き部屋に。

 そのため。
 私と空澄は。
 片付け始める、テーブルの上を。










 片付けが終わり。
 私と空澄は部屋へ。


 空澄の部屋。
 来客用に使用している空き部屋。

 二部屋とも二階とのこと。







 部屋の前に着き。
「ここが彩珠の部屋」
 空澄はそう言って。
 開けてくれる、ドアを。


「自由に使って」
 そう言ってくれる空澄。

 親切な空澄に。
「ありがとう」
 そう言って。
 入る、部屋の中に。





 その瞬間。
 目に飛び込んできたのは。
 森の中にいるような癒された空間。


 家具は木製。

 カーテンやシーツやラグマットなど。
 それらは全体的に緑色。



 できる、過ごすことが。
 こんなにも素敵な部屋で。

 それは、なんという至福の時。





 * * *


「さっ、寝よう」


 寝る準備を済ませ。
 ベッドに横になる。



 その瞬間。
 馴染んでいく、身体が。
 マットレスに。


 その寝心地の良さに。
 抜けていく、スーッと。
 心と身体の疲れが。





 この部屋は。
 溢れている、癒しに。


 心の酸素が豊富で。
 できる、感じることが。
 安らぎを。












 それは。
 私が住んでいる家とは真逆で。

 家……というより。
 お父さん、なのだけど。







 家にいる、お父さんが。

 そうすると。
 心の酸素は全くなく。
 充満している、心の二酸化炭素が。


 だから。
 心の中に二酸化炭素が溜まり。
 心が酸欠状態に。



 それは。
 辛くて苦しくて。

 もがいている。
 心の中で。





 だけど。

 もがいても、もがいても。

 治まるどころか。
 深くて暗い海の中にいるような。

 襲いかかってくる、そんな感覚が。


 それは、とてつもない恐怖。



 そして。
 お父さん。
 そんな恐ろしい魔物。

 襲いかかってくる、それが。


 その度。
 現れてくる、心の中に。
 あの辛さと苦しみと恐怖が。










 って。

 ダメ。
 そんなことを思い出しては。


 空澄(あすみ)が貸してくれた素敵で素晴らしい部屋にいるのに。





 これからのことは。
 わからない、全くといっていいほど。



 だけど。
 少なくとも今は。
 できている、過ごすことが。
 心の酸素が豊富な部屋で。


 だから今は。
 したい、感謝を。
 そのことに。





「……ん……」


 閉じていた視界。

 広がっていく、少しずつ。


 している、ぼーっと。
 意識が。





 どうやら。
 していた、熟睡。



 溜まっていたんだ、よほど。
 睡眠不足からの疲労が。


 だけど。
 思った、すぐに。
 それだけではないと。

 この部屋の心地良さ。
 それも私の睡眠の質を上げてくれたのだと。





「今、何時だろう」


 そう思ったとき。
 入った、目に。
 部屋の壁にかかっている丸い時計が。

 時刻は十五時を回ったところだった。


「そういえば、空澄(あすみ)は……」


 まだ眠っているだろうか。


「とりあえず、
 起き上がって着替えよう」


 ぼーっとしていた頭や身体。
 してきた、スッキリと。



 そうして。
 着替えを済ませ。
 部屋を出て。
 入る、洗面所に。


 そして。
 歯磨き、洗顔など。
 それらを済ませ。
 出た、洗面所を。


 
彩珠(あじゅ)


 そのとき。
 空澄の声が。



 空澄は。
「今、大丈夫か」
 そう訊いたから。
「大丈夫だよ」
 そう返答した。


 そうしたら。
 言った、空澄は。
「それならダイニングルームに来いよ」と。

 なので。
 向かう、空澄と一緒に。
 ダイニングルームへ。




 入った、ダイニングルームに。


彩珠(あじゅ)と一緒に食べようと思って」


 テーブルには。
 すでに用意されている料理が。


料理(これ)空澄(あすみ)が?」


「一人で暮らすようになってから
 自分で用意(する)ようになってさ」


「ごめん、
 お世話になってるから
 本当は私がしなくてはいけないことなのに……」


 空澄に料理まで用意してもらうなんて。


「『お世話に』って、
 特に何もしてないけど」


 それでも。
 言ってくれる、空澄は。
 気遣いの言葉を。


「そんなことない。
 安心して眠ることができたのも、
 空澄が家に入れてくれて部屋を貸してくれたから。
 空澄には感謝してもしきれない」


 こんなにも良くしてもらって。
 恵まれている、ものすごく。

 そう思えるのも。
 空澄のおかげ。


「そんなの当たり前のことをしただけだ。
 友達が困っているのに放っておくわけないだろ」


『友達』

 空澄がそう言ってくれると。
 響く、心に。




「さっ、早く食べようぜ。
 腹減ってるだろ」


 空澄(あすみ)はそう言って。
 座った、椅子に。


「ほら、彩珠(あじゅ)


 空澄の気遣いと優しさ。


 ものすごく。
 している、感謝を。

 それから。
 思っている、ものすごく嬉しいと。



 だけど。
 それと同時に。
 思っている。
 申し訳ない、と。


「本当に何から何まで……」


「何言ってるの、
 早く座って」


 空澄の全ての言葉に。
 込められている、気遣いが。


「ありがとう」


 空澄に感謝をしながら。
 座った、椅子に。


「それじゃあ、彩珠も座ったところで、
 いただきます」


「いただきます」


 空澄の『いただきます』。
 その挨拶に続く、私も。







 そうして。
 頂く、感謝を込めて。





 最初に目に入ったのは。
 ハムエッグ。

 ハムも玉子も。
 焼けている、良い感じに。



 それでは。
 まずはハムエッグを。


 そう思い。
 一口サイズにして。
 運ぼうとした、口に。

 だけど。
 その動きは。
 止まる、口元のところで。




 なぜなら。
 じっと見つめているから、空澄(あすみ)が。
 私の顔を。


「どうした、彩珠(あじゅ)


「なんで見てるの?」


「あぁ、
 なんで、って……
 彩珠の口に合うかな、って思って」


 なるほど。


 確かに。
 気になると思う。

 自分が作った料理。
 それが相手の口に合うかどうかは。


「あのさっ」


 だけどね、空澄。


「……食べづらい……んだけど……」


 そんなにも見つめられると。


「あぁ、そうか。
 じゃあ、目を閉じれば大丈夫か?」


 えっ⁉


「なんでそうなるのっ?
 同時に食べればいいじゃないっ」


 空澄の気遣い。

 わかっている、それは。


 だけど。
 苦手だから、私はっ。
 見つめられる、食べるところを。
 そういうのはっ。


「彩珠、照れてるのか。
 可愛いな」


 可愛い、なんてっ。


「空澄でも、
 そんなふうにからかうことあるんだっ」


 そう。
 きっと、そう。

 からかっているんだ、空澄は。
 私のことを。


『可愛い』
 言う、その言葉を。

 そのことによって。
 私がどういう反応をするのか。


「からかう?
 なんで俺が彩珠のことをからかうんだ?」


 え。

 ということは……。


『可愛い』

 あの言葉は。
 空澄の本音?



 そう思ったら。
 熱くなってきた、一気に。
 顔が。





 そんな私のことを見ている空澄は。
「真っ赤になって可愛い」
 そう言った。


 聞いた、空澄の言葉を。

 そうしたら。
 熱くなってきた、もっともっと。
 顔が。





 * * *


 ご飯を食べ終え。
 今は部屋にいる。



 そのとき。
 ドアをノックする音がし。
彩珠(あじゅ)
 聞こえた、空澄(あすみ)の声が。


 ドアを開けると。
 少しだけ髪が濡れ。
 首にはスポーツタオルをかけた空澄が立っている。


「今、シャワー浴びてた。
 彩珠も遠慮しないで使ってな、浴室」


 言ってくれた、親切に。
 空澄が。


 そのことは。
 ありがたい、ものすごく。


「えっ、
 でも……」


 使わせてもらう、浴室まで。

 それは。
 悪い、さすがに。


 それに。
 借りる、男子の家の浴室を。
 それは抵抗がないといえば噓になる。


「遠慮なんかしなくていいって」


 空澄の心遣い。

 本当に本当に感謝している。


「大丈夫だよ、
 覗かないから」


 私の複雑な気持ち。
 気付いているのかもしれない。

 そう言った、サラッと。
 空澄は。


 その言い方には。
 感じない、いやらしさは。



 それでも。
 残る、やっぱり。
 複雑な気持ちは。


 だけど。


「……ありがとう。
 それじゃあ、お言葉に甘えて……」


 六月の中旬(この時期)


 できない、シャワーを浴びることが。

 それは。
 少し辛い。



 だから。
 使わせてもらう、浴室を。
 した、そうすることに。