オナラはなんでも知っている

「ちょっといい?」と言って、メアリーの手を引っ張り教室の外に連れ出した。隣にいた愛美はあからさまに少し膨れっ面になっていた。
 ゆかりは階段のところでメアリーに話しかけようとすると「この髪型を変えたほうがいいわよ」と言ってメアリーはゆかりに顔を近づけ、首筋の匂いを嗅いだ。
「安物ね。もうちょっと高価なフレグランスを使いなさいよ。せっかく可愛いんだから、あたしみたいに毎週変えてみたら」と、美の相談と勘違いしたのか、アドバイスをくれる。
「毎週変えてるの?」
「当たり前よ」
「ありがとう。参考にする」ゆかりは自分では香りのことなんて気にしたこともなかったが、メアリーの努力には感心した。
「それで何?」
「あっ、変なこと聞いてごめんね、メアリーはどうして徳乃真君と別れたの?」
「・・・あなた、あの時犯人を庇ったでしょう」メアリーはちょっと考えた後こう言った。
「あの時?」
「徳乃真が得意げになって椅子の匂いを嗅いだ犯人を追い詰めて行った時」
「えっ、あっ、うん」
「嫌いじゃないわよ、そういうの」そう言うとまた少し考えて言葉を続けた。
「あたしダメなのよ、ああいうタイプは・・・。私さ、ハーフでしょ、昔この容姿でいじめられたことがあったのよ。だからいくら格好良くてもあぁいう男は拒絶しちゃうのよ」
 ゆかりは『こんなに綺麗なメアリーでも嫌な思いをしたことがあるんだ』と妙なことに感心してしまった。
「でも、徳乃真はそのことを分かってないけどね」
「私、徳乃真君に会いに行ったの。どうしてあんなことをしたのか気になって。そしたら忠彦君の手紙のせいでメアリーと別れたって」
「人のせいにするのが好きなのよ。自分は完璧な人間だと思ってるから」
「その手紙って何?」
「忠彦が私の椅子の匂いを嗅いだ時に机に入れた手紙のこと。徳乃真の秘密が書かれてたの」
「秘密・・・、何が書いてあったの?」
「そんな告げ口見ないわよ。ただ、徳乃真はあたしが見たと思ったんじゃないかな」
「その手紙は?」
「あの日のうちに徳乃真に渡したわよ。お試し期間終了を言った時に一緒にね」
「そう」
 つまり徳乃真はメアリーが忠彦の手紙を見て、それが原因で別れようと言い出したと思った。手紙には何が書かれていたのだろう・・・。どうして徳乃真はあんなに怒ったのだろう・・・。
「もういい?」
「えっ、あっ、うん。ありがとう」