オナラはなんでも知っている

 優しそうな駅員さんが駅務室の扉をあけると、弟の亮平は駅長室のソファーに座ってお菓子を食べていた。
「ほら、お姉ちゃんが迎えにきてくれたよ」
「亮平・・・」とゆかりが呼ぶと、姉を見た弟は安心したのかその場で泣き出してしまった。
「なんかね、どこかに行こうとしていたのか、一人でホームにいるのをお客さんが見つけてくれて、それで。話を聞こうにも何も喋ってくれなくて、家にお姉ちゃんがいるって家の電話番号は教えてくれたから」
「母親が婦警なんです。それで仕事中は連絡してはいけないと言われていたものですから」
「あぁ、それでお姉さんが。一応規則で、書類に書いてもらっていいかな?」
「はい」ゆかりは返事をして、書類に自分の名前や親の名前を書いていく。亮平は小さいながらも駅員さんに迷惑をかけたという認識があるのだろう、神妙に頭を下げた。二人で駅務室を出るとゆかりは自転車を押して並んで歩いた。
「どうしてこんなことしたの?」
「・・・」
「どこに行こうと思ってたの?」
「・・・」
「なんとか言ってよ。言わないとお母さんに何も言えないじゃない」
「・・・お母さんには黙ってて」
「そんなわけにはいかないでしょう。もぅ、あぁ、心配した・・・」
 だが、その後も弟の亮平はどうしてこんなことをしたのか一切口にしなかった。ゆかりと一緒に帰る間は神妙にしていた弟だったが、家に帰るとだんだん普段の亮平らしくなって来た。だが、母親の「ただいま」の声を聞くとビクッとしてまた神妙な顔になった。ゆかりは亮平が一人で電車に乗ろうとして保護されていたという話をした。母親もどこに行こうとしていたのか聞くのだが、それでも亮平は一切話をしなかった。母親は頑固な亮平に手を焼き、「誰に似たのかしら? もう、いいわ、二度としない?」と聞くと亮平が「うん」と返事をしてこの件はこれで終わった。

4月28日 木曜日
 ゆかりはメアリーが一人になるチャンスを探った。だが、メアリーの隣にはいつも嬉しそうな愛美がいてなかなか一人になることがない。業を煮やしたゆかりはお弁当を食べ終わったタイミングでメアリーに話しかけた。
「メアリーちょっといい?」
「何?」メアリーは普段話しかけてこないゆかりが話しかけてきたことに少しだけ驚いていた。