オナラはなんでも知っている

 小学校4年生の時には、近所の子供会主催のお泊まり会があって公民館にみんなが集合した。夜にはお母さんたちが肝試しを企画して、子供達は一グループ4人で4つのグループを作り順番に近所の神社で肝試しを行なった。ゆかりのグループが出発すると5、6年生の上級生がゆかりと2年生の友美を軽い遊びのつもりで置いてけぼりにして先に行ってしまった。神社は暗く、街灯もなく、ちょっと先でも真っ暗でゆかりと友美は心細さに泣き出した。それでも神社の本殿まで行って、置いてあるお札を取ってこなければ帰ることができない。二人が泣きながら神社まで行きお札を取って帰ってくると上級生の5、6年生は指をさして笑っていた。お母さんたちが上級生の二人をたしなめたが、そんなに怒るわけでもなく、ゆかりにはその対応がどうにも許せなかった。
 その夜、ゆかりは自分たちを置いて行った二人がトイレに入ると、トイレの天井の隅に小さな黒い影を出し、それを広げて行った。二人はトイレに広がっていく影に気がつくと「ぎゃー!」という大きな悲鳴をあげた。二人がトイレから慌てて出てくると、ゆかりは指を指して笑ってやった。
 その後、その二人はトイレで幽霊が出たと大騒ぎをしたが、お母さんたち大人が確かめに行っても幽霊はおろか、影もなく何かの見間違いということで騒動は収まった。が、二人はあの幽霊のような影はゆかりと関係があるといって言いふらした。
 ゆかりは幽霊が出せる。幽霊女だと言いふらされた。
 だが、ゆかりが出せるの幽霊ではなく、『影』だった。何もないところに影を刺すことができる。しかも、思いのままに、それがゆかりの力だった。

 徳乃真は壁に『呪う』という黒い影を見た。確かにその影は『呪う』と読める。そして思い出した。ゆかりは幽霊を呼び出せるやつだと。徳乃真がゆかりを見ると、そのことを見透かしているかのように薄笑いを浮かべていた。
『こいつだ、やはりこいつがやっているんだ』徳乃真はそう確信した。
『ゆかりは悪霊を出している』
 ゆかりは徳乃真の目に浮かんでいる恐怖を見た。もう少し、もう少し怖がらせてやろう。人を怖がらせるにはその人だけのメッセージを送ればいい。
『呪う』の文字を消し、次の文字を出した。
『徳乃真』と名前を出し、そして『お前に取り付く』と黒い文字を出した。