啓も教室の後方の隅からメアリーを見ていた。クラスの中では透明人間の啓であってもメアリーの美しさには心を動かされた。メアリーの左後の啓の席からではほとんど顔が見えない。だがたまに左を向いた時にその横顔が見える。その横顔がまた美しかった。クラスの可愛い子でも横顔はひらべったいのにメアリーの横顔は惚れ惚れするほど立体的だ。ひまわりは横から見ると美しくないけど、バラの花は横から見ても美しい。
 メアリーの後ろの席はゆかりが座っていた。ちょうど背中しか見えないが、背中のラインが日本人離れしていて、後ろ姿でも美人は美人なんだと思っていた。
 その同じ列の一つ置いて右側に萌美が座っていた。萌美はメアリーを見るのはそこそこに自分の席の前の方に座っている徳乃真を見ていた。
 メアリーを取り囲む女子たちの質問がひと落ち着きすると誰も聞けなかった質問を愛美が聞いた。
「好きな男子のタイプは?」
 愛美の発したこの質問は小さい声ながらもクラスの男子全員の耳に届いた。誰もが知りたがった質問に、男子は何気なさを装って体の向きを変え、集中力を高め、その言葉を待った。
『メアリーの好きなタイプは? いったいどんな男子なんだ。大人しい男子というのか。面白い男子というのか。運動神経がいい男子なのか。あたし背が高いから、背の低い男子がいいの。花が好きだから、花の好きな男子。実はあたしオタクなの、アニメが好きな男子。頭がいい男子。あたしこう見えても変態だから、好みの男子はあたしよりも変態がいい・・・』男子全員が自分を絡めて想像する。ほんの少しでも自分の可能性があるのか? メアリーはいったいなんという?
「頭のいい人ね」
 ほとんどの男子生徒が撃沈した。クラスで二番目、三番目に頭のいい生徒も、きっとメアリーのいう頭のいい人とクラスで二番目、三番目の頭がいいというのは意味が違うんだろうなぁと思ったし、それ以外の人は『もう、俺なんて箸にも棒にも引っかからない』と観念した。だが一人だけ衝撃を受けた生徒がいた。
 それは英治だった。
 英治はメアリーが自分のことを言った気がして、顔が赤くなった。『もしかしたら僕のことを言ったのか・・・』

 こうして2年生の初日はメアリーショックで始まった。