救急車で運ばれた先は大学病院で、「どこが痛いですか?」と聞かれるうちに身体の感覚が戻り始め、同時に重い痛みがやってきた。中でも右足の感覚はおかしく、動かすこともできず、感覚が戻らない。他にも腕や頭、胸も痛かった。その痛みは時間を追うごとに激しくなっていき、唸り声を上げずにはいられなくなった。MRIやCTの検査をして集中治療室に入った頃には両親が心配顔で覗き込んでいたが、点滴に入れられた痛み止めと睡眠導入剤ですぐに意識を失った。
次に眼が覚めたときは右足の複雑骨折のための手術も終わり一般病棟に移された後だった。幸いなことに脳波に異常はなく、内臓の損傷もなかった。右足の複雑骨折と肋骨の骨折。3階から落ちてこのぐらいの怪我で済んだのは植栽がクッションになったからだと親から聞かされた。親からはそれ以上の説明がなかった。
『3階から落ちた・・・』忠彦には自分がなぜ3階から落ちたのかわからない。
月曜日に泉先生がお見舞いに来てくれ事情を説明してくれた。どうしてこんなことになったのか、記憶のない部分がようやく判明した。
『徳乃真に殴られ、ズボンを脱がされそうになって、その後、そうなったのか・・・』
忠彦にとって救いは殴られる前からの記憶がなかったことだ。当然窓から身を投げた記憶もない。先生から説明を受けてもいまいち自分のことのようには思えず、肝心のところで他人事のように話を聞いた。
そしてこの日二人がお見舞いにやってきた。
「忠彦君・・・」萌美が泣きそうな顔で忠彦の名前を呼ぶ。
「萌美ちゃん」
忠彦は上半身を起こそうとするのだが、手術した足も肋骨の骨折もまだ痛くてうまく体を起こすことができない。それでも顔を歪め背中にクッションを入れるとなんとか上半身を起こした。
「ありがとう」忠彦が笑顔を作って萌美を見た。
もし忠彦が死んでしまったら自分も死のうと考えていたのが、萌美は、忠彦のこの笑顔を見て自分は死なずにすんだのだと悟った。ようやく萌美にもかすかに笑顔が現れた。泣きそうな、嬉しそうな、安心したような、そんな笑顔になった。
「バカ、心配したんだから・・・」萌美はそう言った後しばらく泣いた。ゆかりも忠彦も何も言わなかった。ひとり萌美のすすり泣きが響いて、やがてそれもおさまると、「何か欲しいものはない?」と萌美が忠彦に聞いた。
「うぅん。大丈夫」
「足、痛い?」
次に眼が覚めたときは右足の複雑骨折のための手術も終わり一般病棟に移された後だった。幸いなことに脳波に異常はなく、内臓の損傷もなかった。右足の複雑骨折と肋骨の骨折。3階から落ちてこのぐらいの怪我で済んだのは植栽がクッションになったからだと親から聞かされた。親からはそれ以上の説明がなかった。
『3階から落ちた・・・』忠彦には自分がなぜ3階から落ちたのかわからない。
月曜日に泉先生がお見舞いに来てくれ事情を説明してくれた。どうしてこんなことになったのか、記憶のない部分がようやく判明した。
『徳乃真に殴られ、ズボンを脱がされそうになって、その後、そうなったのか・・・』
忠彦にとって救いは殴られる前からの記憶がなかったことだ。当然窓から身を投げた記憶もない。先生から説明を受けてもいまいち自分のことのようには思えず、肝心のところで他人事のように話を聞いた。
そしてこの日二人がお見舞いにやってきた。
「忠彦君・・・」萌美が泣きそうな顔で忠彦の名前を呼ぶ。
「萌美ちゃん」
忠彦は上半身を起こそうとするのだが、手術した足も肋骨の骨折もまだ痛くてうまく体を起こすことができない。それでも顔を歪め背中にクッションを入れるとなんとか上半身を起こした。
「ありがとう」忠彦が笑顔を作って萌美を見た。
もし忠彦が死んでしまったら自分も死のうと考えていたのが、萌美は、忠彦のこの笑顔を見て自分は死なずにすんだのだと悟った。ようやく萌美にもかすかに笑顔が現れた。泣きそうな、嬉しそうな、安心したような、そんな笑顔になった。
「バカ、心配したんだから・・・」萌美はそう言った後しばらく泣いた。ゆかりも忠彦も何も言わなかった。ひとり萌美のすすり泣きが響いて、やがてそれもおさまると、「何か欲しいものはない?」と萌美が忠彦に聞いた。
「うぅん。大丈夫」
「足、痛い?」

