オナラはなんでも知っている

 ゆかりがそんな萌美を心配して保健室に様子を見に行く。
「大丈夫?」
 萌美は白いベッドに横になっていた、その体が薄くてゆかりはやりきれなかった。
「夜、ほとんど寝ることができなくて、ちょっとうとうとすると忠彦君が急に走り出して窓に消えていくの、その時、忠彦君があたしを見るの、ものすごく寂しそうな顔してるの。その後ドシンと言う音が聞こえて、あたしビクッとして目が覚めるの。忠彦君の気持ちを考えると涙が止まらなくなっちゃって。病院でどんな気持ちでいるのだろう? 痛いのかな? 死にたいなんて考えてないかな・・・って考えちゃって・・・」
 ゆかりは萌美を連れて職員室の泉先生のところに行き、忠彦の入院している病院を聞いた。泉先生は教えていいのか迷ったようだったが、萌美のショックの受け方を見て、全てを察したのか他の生徒に教えないことを条件に病院を教えてくれた。ただ、みんなの前であんな状態にされ、窓から身を投げたという忠彦の気持ちを考えると、気持ちが落ち着くまでは一人にしてあげた方がいいのではないか。とも言った。ゆかりと萌美は先生にお礼を言って職員室を出た。
 萌美はやっぱりお見舞いに行きたいとゆかりにつぶやいた。

4月26日 火曜日
 ゆかりと萌美は学校が終わると泉先生から教えてもらった大学病院に向かった。電車で三つ先の駅まで行って、そこから病院行きのバスに乗る。夕暮れの街をバスに揺られていると心が締め付けられていく。住宅街で乗客を下ろすとバスの乗客は二人だけになった。診察時間の終わったこの時間に病院に向かうのは自分達しかいない。嫌に広くなったバスがかすかに車体を揺らしながら病院へと向かう。
 あたりが薄暗くなりかけた頃、二人の乗るバスが大学病院の構内に入った。バス停で止まると二人がバスを降りる。バスに乗る人はおらず、無人のバスが去って行った。
 大学病院は広大な敷地に新館、本館、別館と巨大なコンクリートの地味なビルが建ち並ぶ。二人は敷地の広さに圧倒された。この時間外来の患者さんがいないためポツンとした自分たちが騙されてでもいるかのような錯覚に陥る。所々に設置された看板を見て、入院棟がどこかを確認するとそちらに向かって歩き出した。足取りも重い、窓から身を投げた忠彦にどんな顔でお見舞いに行けばいいのか・・・。