オナラはなんでも知っている

 教室内は水を打ったようにシーンと静まり返り、誰もが容赦のない徳乃真の行為が行き着くところまで行き着いた、これで終わったと思ったとき、徳乃真がさらに一歩忠彦に近づいた。
「徳乃真君、もうやめなさい」ゆかりは徳乃真から尋常ではない怒りを感じた。
「徳乃真、やめなさいよ」メアリーもついに徳乃真を止めようと口を開いた。
 だが、徳乃真はその言葉を無視して、忠彦のパンツに手をかけると「いいか、手ェ出すなよ!」と今まで聞いたことのないような怒気を含んだ声で周りを威圧した。そして、徳乃真は力任せにパンツを破きにかかる。忠彦はパンツを持たれて腰が浮き上がった。
「徳乃真君」ゆかりが徳乃真を止めようと近づく。が、一足遅くビリビリっと言う音と共にパンツが破れ、忠彦は床に落ちた。
「うわあ!」
 すると突然忠彦が叫び、何かバネが反発して跳ね返るように飛び起きると忠彦は突然走り出した。忠彦は教室のドアに向かって走り出したのではない、教室の窓に向かって走り出していた。
 みんなが見ている中で、徳乃真の開けていた窓に向かって、その身を、投げ出した。
 教室内のみんながそれを見ていた。誰も止める間がなかった。忠彦は窓の外にフッと消えた。

 ドシン!

 この日は授業どころではなくなった。先生たちは病院に行ったり、事件を受けて会議を開き、生徒から話を聞き取り、忠彦の両親に事情を説明し、教育委員会に報告した。
 徳乃真は生徒指導室に連れて行かれ、体育の先生が一人つきっきりで見張り役となった。
 2年生のクラスは全ての授業が自習となった。
 萌美はショックのあまりずっと泣き続けた。
 ゆかりは泣き続ける萌美に付き添った。萌美の気持ちを考えるとやりきれない。自分の彼がみんなの前で殴られ、ズボンを脱がされ、窓から身を投げたのだ。ゆかりは萌美のそばにいるけれど、萌美になんと声をかけたらいいのか分からなかった。
「大丈夫?」それがどんなに的外れな声かけかもわかっていたが、他に言葉が思い浮かばない。
「あんなの、あんなのないよ。忠彦君がかわいそう」
 萌美の涙が止まらない。「ねぇ、ゆかり、ごめん、もうちょっと一緒にいて」
「うん」ゆかりは萌美の手が震えているのを見て、そっと取って握ってあげた。握ってあげることしかできなかった。