放課後、メアリーの元に女子生徒が二重、三重に輪を作り、メアリーを質問責めにしていった。その輪を仕切っていたのはメアリーのすぐ隣に座った愛美だった。愛美はクラスの中で一番可愛かったが、メアリーの登場で、あっという間にその座を奪われた。だが愛美はそんなこと気にもしていなかった。こんな綺麗な人が世の中にいるということに驚き、その驚きは愛美の中でかぎりなき美の極地で神聖にして穢してはならないものだと鮮烈にインプットされた。女子の中で自分が一番最初の友達になり、雑菌は寄せつけないとの決意でメアリーのそばにいた。
「みんな、ちょっとメアリーに質問するのはいいけど、順番を守ってね」と、みんなの質問をしきり始める。
「彼氏はいるの?」
「前はどこの学校にいたの?」
「お父さんは何をやっているの?」
「兄弟はいるの?」
「好きな食べ物は?」
「はい、そこで一旦待って」と愛美が言って、尽きない質問をいったん止めて、メアリーがその全てに正直に答えていく。
「秘密」
「以前は東京のインターナショナルスクールに通っていた」
「父親はIT系の会社」
「兄がいるけど、アメリカに住んでいる」
「お肉もお魚も好き」
 一つ一つの答えに女子たちは芸能人を見るように歓声を上げていた。そしてまた愛美が質問の交通整理をしていく。
 そんな様子を遠巻きに男子たちも見ていた。徳乃真と紫苑も見ていた。窓際の列の一番前、英治のところでは忠彦と誠寿と陽介が集まって、この四人もチラチラメアリーを盗み見ていた。中でも陽介は見ていることを隠そうともせずメアリーを見て、「どんな下着をつけてるんだろうなぁ・・・」と思ったことをそのまま口にしていた。
「もしかしたら、あれだけの美人は恐れ多くて誰とも付き合えないんじゃないかな?美人すぎると意外に恋人ができないって聞いたことがある」と、英治が言う。
 英治のその言葉に忠彦も一理あるかもしれないと思った。忠彦が誠寿を見ると、誠寿はメアリーの向こうの萌美を見ているようだった。