みんなもメアリーに注目する。すると突然メアリーが予想もしないことを口にした。
「私メアリーは昨日徳乃真と別れました。お試し終了です」そう言ってすぐに座った。隣の愛美が慌ててメアリーに確認する。
「えっ！　本当？」
「えぇ」
「どうして？」誰かが言ったが、それに答えたのは徳乃真だった。

「うるせぇ！」

　徳乃真の怒鳴り声に教室内の空気が一気にピンと張った。
　生徒に緊張が走る。動きが止まり誰も何も話さない。
　水を打ったような静かな教室で徳乃真が立ち上がった。ガラガラと椅子が引きずられる音だけが教室に響いた。立ち上がった徳乃真はそのまま一直線に忠彦のところにやってきて、胸ぐらを掴むと力任せに立ち上がらせいきなり、殴った。
　ゴツッ！
　人の頬が殴られる鈍い音がしたかと思うと、忠彦は周りの机を巻き込みながら床に倒れた。
　ガラガラガシャーン！
　そこに座っていた女子生徒がびっくりして立ち上がり悲鳴を上げる。だがどうしていいか分からずにその場に立ち尽くしてワナワナ震え始めた。
「どうした？」紫苑が突然暴れ始めた徳乃真にゆっくり近づきその腕を抑えた。
「こいつがメアリーの椅子の匂いを嗅いでいた」
「本当か？　忠彦、お前だったのか？」紫苑が床に転がる忠彦を『だったら殴られても仕方ないよな』と言う目で見る。
「それにな、」
「それに？」
「こいつ、あぁ、腹が立つ！」と言って徳乃真は床に転がった忠彦のベルトに手をかけた。忠彦の周りで震えていた女子生徒は小さな悲鳴を上げながら後づさりしてどうしていいかわからずに戸惑っている。
「やめてよ、やめてよ」忠彦は懇願するように叫ぶが、徳乃真の力が弱まることはない。
「おい徳乃真やめろって。お前あんまりすると停学になるぞ」紫苑が徳乃真の手を止めようとするが、怒りで我を忘れた徳乃真はその手を振り払い執拗に忠彦のベルトを外そうとした。冗談なんかではなく、本気で怒っている・・・、ここにきて紫苑もどうしていいか分からなくなった。女子生徒も徳乃真の豹変ぶりに困惑する。
「先生呼んできて！」誰かが叫ぶ。