オナラはなんでも知っている

「それじゃ、バイバイ」
 メアリーは電車を降りると電車の中の徳乃真に軽く手をふった。
 電車が発車し、メアリーは改札に向かう通路を歩き始める。電車から徳乃真が見ていることに気が付いたがメアリーはもう徳乃真を見ることはなかった。
 徳乃真は電車を降りたメアリーを追いかけることはしなかった。振られた女を追うことは徳乃真のプライドが許さない。女から捨てられたのは初めてだった。どんな時も別れる時は徳乃真の方からだった。別れる時には女の気持ちなど考えずに捨てるように言葉をかけてそれで終わりだった。それが今同じことをされた。メアリーの取りつく島のない表情、毅然とした未練のかけらもない、こちらが何を言っても受け入れてくれないだろう愛のない決意。
『こんな気持ちになるのか、こんなはらわたが煮え繰り返る気持ちになるのか・・・』
 徳乃真はメアリーから手渡された手紙をみた。中身を取り出す。

『なんだこれは・・・!』

 怒りが沸き起こって来る。抑えても抑えても抑えられない怒り。心臓のたかぶり。顔が熱くなる感覚。手が怒りでワナワナ震える。
 その怒りの矛先は忠彦に向かった。
『クッソー、絶対にただじゃおかねぇ・・・』

4月23日 土曜日
 ゆかりは暗澹たる気持ちで教室に入った。昨日のことで徳乃真が何か言ってくるだろうことを想像していたのだ。ところが、教室はいつもとは違う一種異様な空気が支配していた。
『なんだろう・・・』
 徳乃真は机に座りいつもの陽気さのないただならぬ気配を発していた。女子たちは一箇所に集まりひそひそとつぶやいている。その中心に愛美がいた。声が聞こえてくる。
「忠彦だったの」
「えぇ・・・」
「まじかぁ・・・」
「本当に忠彦君だったの?」
「本当、あたし見たんだから、忠彦が椅子に顔をつけてこうやって匂いを嗅いでいたのよ。気持ち悪! あれね、変態よ、変態。あたしさ椅子も舐めてるんじゃないかと思ってるんだけどね。メアリーはそんなことないっていうけど、アルコール消毒した方がいいと思ったのよ・・・」
「うわぁ」
「きゃー」と周りの女子から悲鳴があがる。
 ゆかりが萌美を見ると、愛美の話を聞いて顔面蒼白で固まっていた。
 そこへメアリーが登校してきた。
「メアリーおはよう、昨日大変だったね」と愛美がメアリーに話をふる。