オナラはなんでも知っている

 誰もいない教室は物音一つしなかった。隣の教室も反対側の教室も誰もおらず、水を打ったようにしんと静まり返っている。遠くから運動部の声と吹奏楽部の楽器の音がかすかに聞こえて来た。忠彦は教室の中を見回すと真ん中あたりの机の上に何かがあることに気が付いた。
 
 また、その同じ頃。
 メアリーが帰ろうと校舎の外へ出ると「教室で先生が呼んでいるよ」と教えられた。メアリーは徳乃真が待っていると思ったが、ちょっとぐらいならそのまま待たせてもいいだろうと踵を返してまた上履きに履き替えた。すると同じように教室に戻ろうとしているのだろう先を歩く愛美を見つけた。
「愛美」と声をかける。
 愛美はびくっとして振り向くと声をかけたのがメアリーだとわかり「メアリーどうしたの?」と驚いた顔で声をかけてきた。
「先生が呼んでいるんだって。愛美は?」
「あっ、うん、忘れ物」
「それじゃ一緒に行こうか」と言って二人は連れ立って教室に向かった。
 二人が教室にやってくると、微かに中から音がした。
 メアリーと愛美は顔を見合わせ、教室の中をのぞく。
 すると、メアリーの椅子に屈み込んだ黒い影を見た。
 匂いを嗅いでいる。
「何してるの?」
 黒い影はビクッとして立ち上がると二人の方を振り返った。
「忠彦じゃない」愛美が眉間にシワを寄せてつぶやいた。
『この席は、そうだメアリーの席だ。僕は、今何を見られた?』
「忠彦君だったの。いい匂いがしたでしょう」メアリーは薄く笑った。
 忠彦の血の気がひいていった。
「うわぁ、変態じゃん」メアリーの隣にいた愛美が汚物を見るような目で忠彦を見た。
「いや、僕は、違うよ」
 忠彦は恐ろしくなってガタガタと震えはじめた。『僕は、僕はなんてことをしてしまったんだ』忠彦は後ずさった。そして、そのまま走って教室を出ていった。
「うわぁ、気持ち悪! あいつ変態じゃん。メアリー、椅子と机チェックしてあげる。もしかしたらベロベロ舐めてるかもしれないよ。ウワァ、気持ち悪! メアリーちょっとそこにいて。変なもの入れられていないか調べてくるから」愛美はメアリーをそこに留めて机に行くと、机の中を探し始めた。そして、手紙を見つけて、指でつまみ上げた。
「なにそれ」メアリーが尋ねる。
「入ってた。忠彦が入れたんじゃない? きっと好きですとか書いてあるのよ、気持ち悪!」