忠彦はダッシュで自転車置き場にやって来た。昨日夜、萌美に英治達と一緒に帰らなくなったことを告げると「一緒に帰ろう」と言ってくれた。今日は朝からずっとウキウキした気持ちで過ごし、この時間を楽しみにしていた。地に足がつかないとはこのことだ。英治たちと帰っている時は誰かの悪口や、陽介の今パンティーが見えたのどうだという話や、英治の頭のいい自慢話で、聞いていて楽しさを感じられない話題が多かった。
『英治たちと帰るよりも萌美ちゃんと一緒に帰った方が１００倍ウキウキする』気づいてしまえば否定できない本心で、仲の悪くなった友達に気をつかって、謝って、誤解を解いて、言い訳をして、許してもらって一緒に帰ってまた楽しくない話を聞くよりも、萌美と帰った方がいい。忠彦はこれから毎日一緒に帰る約束をして今日が記念すべきその第一日目だった。
『人がいなかったらどこかで手をつないで帰れるかもしれないなぁ・・・』
「忠彦！」
　急に男の声で呼ばれて忠彦はびくっとした。自分が萌美のことを考えていたことを知られたのではないかと顔が赤くなる。
「・・・何？」
「探したよ。教室で先生が呼んでたよ」
「本当？」忠彦のウキウキしていた気持ちが急速に萎えていく。
「うん」
「ありがとう」
　せっかく忠彦は萌美と一緒に帰ろうと思っていたのに残念でならない。落胆した気持ちでいると萌美がやってきた。忠彦は萌美に「ちょっと用ができたから」と言って先に帰ってもらうことにした。萌美は残念そうな顔をして「待ってようか？」と言ってくれたが、「先生に呼ばれたから時間がどれくらいかかるかわからないから先に帰ってて、あとでメッセージ送るから。明日は一緒に帰ろう」と萌美に軽く手を振って答えた。
『何か急ぎの用事でもあるのだろうか？』忠彦はそう思いながら教室へ急ぐ。
　この時間生徒は部活に行っているか帰っているか、文化部の部室も建物が違うためにすれ違う生徒もいない。忠彦は足早に階段を登って行く。自分の足音がひたひたと聞こえる。まっすぐに伸びた廊下を歩いて行く。自分の教室の前にやってくるとドアを開けた。
『あれ、先生いない。まぁいいか、ちょっと待つか』そう思って教室の中に入って行く。