オナラはなんでも知っている

 この日、6時間目の授業は体育で、5時間目終わりの休み時間になると女子生徒が体操服を持って教室を出て、男子生徒だけの着替えが始まった。
 徳乃真がまた椅子の上に立ち上がり「みんな聞いてくれ」と最近お気に入りのフレーズを使って発表を始めた。
「ついにオレはメアリーとチューしました」
 男子生徒が「おぉう!」とざわつく。
 メアリーと付き合い始めて一週間、メアリーとセックスします宣言から三日、もうチューしたのか。チューをしたということは、セックスは? 物のはずみでもしかしたらメアリーとセックスしたのか? 男子生徒の一番の関心はそこに集中する。徳乃真なら物のはずみのセックスもありえる。
 徳乃真が得意顔で男子生徒の反応を楽しんでいると、紫苑がみんなの興味を代表して聞いた。
「セックスは?」
 身を乗り出して聞こうとする者。関心がないふりをしてでも聞き耳だけは立てる者。結局みんなが聞き耳を立てていた。『さぁ、徳乃真はなんていうんだ』
「まだしてねぇよ」
 教室内のピンと張った空気が少し和らいだ。ホッとしたり、残念がったり・・・。
「そう慌てるなって。楽しみはもうちょっと先だよ」
 徳乃真は自分たちには持っていない楽しみを持っている。いつでもキスができ、いつでも胸を揉めて、いつでもセックスができる・・・。そんな夢のような楽しみだ。男子生徒の大部分はセックスどころがキスすらしたことがない。女子の唇というのは一体どんな物なのだろう?
「あ、あの、唇はどんな感じなの?」
 我慢できなくなった男子生徒の一人が徳乃真に質問した。
「おぉう、よく聞いてくれた。メアリーの唇はそれは最高だったよ。今までの女子とは違うな」
「何が、何が違うんですか?」
「なんというか、香りだな」
 徳乃真の感想にみんなが聞き耳を立てる。
「お前たちも知っているかもしれないが、メアリーはいい香りがするだろう。すれ違ったときとかにふわりと漂うあの香りだ。それが口元からも漂うんだ。リップじゃなくて、俺もよく分からないけど毎日薔薇を食べてたらああいう香りになるのかもな」
 男子生徒にとっては高度すぎる話でよく理解できなかった。だが話はそれで終わらなかった。
「それにな、舌遣いがうまいんだ」
『舌遣いがうまい・・・、それはなんだ?』