「いや、そうじゃないんだ」
「何、どうしたの?」
「俺・・・、」忠彦は息を吸って心の中で一歩前に出た。「萌美さんと付き合うことになったんだ」
「えっ・・・」
「萌美さんと付き合うことになったんだ。だからそのことを誠寿に言っておかないといけないと思って」忠彦の心臓は口から飛び出そうだった。心なしか心臓の拍動もおかしなリズムになっている気がする。指先が震え冷たく血が通っていない。その震えを止めようと右手で左手を抑えるのだが、余計に震えてしまう。
「だって、この前、俺言ったよね・・・」
「うん」
「だって、俺言ったじゃん」
「うん」
「そんな・・・、どっちから」
「どっちからっていうか、メッセージのやり取りをしているうちに・・・」
「いつから?」
「それは、誠寿が別れたって聞いた後からだけど」
沈黙が流れた。
気まずい沈黙。
誠寿は明らかに動揺している。小刻みに震え、こちらを見たと思ったらすぐに目を逸らす。忠彦も何を話したらいいのか分からない。
「・・・別に」
「えっ?」
「別に・・・。俺もう別れてるから」
「うん」
「それだけ?」
「あっ、うん」
「・・・わかった」そう言うと誠寿はその場を去って行った。
忠彦はもしかしたら誠寿から殴られるのではないかと思っていたし、一発ぐらいなら殴られても仕方ないと覚悟はしていた。だが、誠寿はやりきれない、なんとも言えない寂しい顔をして去っていった。誠寿には悪いことをしたと思ったが、これでスッキリしたのも事実だ。忠彦は大きく息をつくと階段に腰を下ろした。とてもじゃないが、気持ちを落ち着けなければ教室に戻れない。
『しばらくここで気分を整えよう』
忠彦が手を見ると、まだ手が震えていた。それでも、徐々に誠寿に言ったという実感が湧いてきて、同時に『萌美さんは俺の彼女だ』と誰に憚ることなくこう思える気持ちが湧いてきた。その気持ちに押されるように立ち上がると忠彦は教室に戻った。視界の中に誠寿が机に突っ伏している姿が見えた。さらに視界の端に萌美の姿も捉えた。忠彦が萌美を見ると、萌美も忠彦を見た。忠彦はみんなにわからないように萌美に目で合図を送った。
『誠寿にきちんと話したよ』
萌美もこの目の合図を理解したようだった。
『嬉しい』優しい微笑みを返してくれた。
「何、どうしたの?」
「俺・・・、」忠彦は息を吸って心の中で一歩前に出た。「萌美さんと付き合うことになったんだ」
「えっ・・・」
「萌美さんと付き合うことになったんだ。だからそのことを誠寿に言っておかないといけないと思って」忠彦の心臓は口から飛び出そうだった。心なしか心臓の拍動もおかしなリズムになっている気がする。指先が震え冷たく血が通っていない。その震えを止めようと右手で左手を抑えるのだが、余計に震えてしまう。
「だって、この前、俺言ったよね・・・」
「うん」
「だって、俺言ったじゃん」
「うん」
「そんな・・・、どっちから」
「どっちからっていうか、メッセージのやり取りをしているうちに・・・」
「いつから?」
「それは、誠寿が別れたって聞いた後からだけど」
沈黙が流れた。
気まずい沈黙。
誠寿は明らかに動揺している。小刻みに震え、こちらを見たと思ったらすぐに目を逸らす。忠彦も何を話したらいいのか分からない。
「・・・別に」
「えっ?」
「別に・・・。俺もう別れてるから」
「うん」
「それだけ?」
「あっ、うん」
「・・・わかった」そう言うと誠寿はその場を去って行った。
忠彦はもしかしたら誠寿から殴られるのではないかと思っていたし、一発ぐらいなら殴られても仕方ないと覚悟はしていた。だが、誠寿はやりきれない、なんとも言えない寂しい顔をして去っていった。誠寿には悪いことをしたと思ったが、これでスッキリしたのも事実だ。忠彦は大きく息をつくと階段に腰を下ろした。とてもじゃないが、気持ちを落ち着けなければ教室に戻れない。
『しばらくここで気分を整えよう』
忠彦が手を見ると、まだ手が震えていた。それでも、徐々に誠寿に言ったという実感が湧いてきて、同時に『萌美さんは俺の彼女だ』と誰に憚ることなくこう思える気持ちが湧いてきた。その気持ちに押されるように立ち上がると忠彦は教室に戻った。視界の中に誠寿が机に突っ伏している姿が見えた。さらに視界の端に萌美の姿も捉えた。忠彦が萌美を見ると、萌美も忠彦を見た。忠彦はみんなにわからないように萌美に目で合図を送った。
『誠寿にきちんと話したよ』
萌美もこの目の合図を理解したようだった。
『嬉しい』優しい微笑みを返してくれた。

