メアリーはこの反応を予想していたかのようにそのどよめきを平然と受け止める。
　クラスメイトたちは無防備な心にゼンマイ仕掛けのおもちゃが飛び込んで暴れたように心の整理がつかない。もし自分たちと同じような外見の転校生だったらクラスのお調子者が「よろしくね」と言ったり、クラス全体で拍手が自然発生したりするのだろうが、あまりにもレベルの違う美しさを見せられてどうすることもできなかった。徳乃真でさえも今まで見たこともないような美しさに呆気にとられた。
　北欧系の顔立ちをしたメアリーは彫りも深く目は二重で大きい、その瞳は青味がかり、肌は透き通るように白い。鼻筋は通り、髪の毛は栗色だった。しかもスタイルが抜群によかった。お尻は小さく上に上がっているのがスカートの上からでもわかる。足は長く、特に膝から下が長かった。隣にいる泉先生が進化の過程の原人に見えてくる。さらに自己紹介の時に胸にあてた手はスラっと長く、爪は長細い楕円形の完璧な形で色は桜貝のようだった。男子はその美しさに恐れをなし、女子は自分が同じ人間であることを恥ずかしいと思った。
　瞬間にメアリーはこの学校の階層のトップに躍り出た。
「とりあえず、一番後ろの席に座って」と泉先生に促されメアリーが移動する。そのとき、メアリーが進む両脇の生徒が机を少しずらした。意識せずにメアリーが歩きやすいように通り道の間隔を開けたのだ。その行為に対してメアリーが微笑みで返す。ゆかりの後ろの席にメアリーが座るとそのまま新学期恒例の席替えとなった。泉先生の用意したくじをみんなが引いていく。メアリーもくじを引く。あちこちで一喜一憂する声が漏れる、関心は徳乃真の周りの席と、それ以上にメアリーの周りに誰が座るのかになった。徳乃真は入り口近くの前の方、メアリーは教室のほぼ真ん中に決まった。徳乃真の周りと、メアリーの周りの席のどよめきが収まらない。
「静かに、静かに」と半ば強制的に泉先生が生徒たちを落ち着かせる。だがその泉先生ですら教室の真ん中に現れた制服の違う異質な美しさを放っているメアリーと、これまた存在感が座っているような徳乃真が教室にいることにまるでドラマの撮影だなぁと戸惑いを感じざるをえなかった。泉先生はそんな気持ちはおくびにも出さず、１年の終わりに行われた全国模試の結果を返すことにした。
「英治」泉先生は英治の名前を呼んだ。