オナラはなんでも知っている

 昨日はとうとう誠寿に話すことができなかった。いざ話そうとして誠寿に向き合っても相手の顔を見ると気持ちが萎えてしまった。だがこんなことではいけない、萌美が待っていると自分を鼓舞して今日こそ告げるのだと並々ならぬ決意で学校にきた。その決意は忠彦の表情を変えていた。椅子に座ってじっとしているのだが思い詰めた顔で、顔色が悪く、忠彦の席の周りの女子が具合が悪いのかと心配するほどだった。しかも時間を追うごとに息遣いも荒くなっていき、ついに3時間目の数学の授業では心配した先生が保健室に行くように命じた。
 忠彦は保健室のベッドで横になりながら『なんて、自分は情けないんだ』と自分を恥じた。こんなことでこの先やっていけるのだろうか・・・。
『このままでは今日も言えずに終わってしまうかもしれない。それだけはダメだ。なんとか誠寿に話をしなくては、こんな状態が続いたら僕は耐えられない』
 なんとか4時間目の英語の授業の途中で教室に戻ると、こともあろうに誠寿が声をかけてきた。
「忠彦、大丈夫か? 具合悪いのか?」
「・・・大丈夫」忠彦は自分の身を案じてくれる誠寿に返す言葉がなかった。『後1時間もすれば具合が悪くなるのは誠寿、君かもしれないんだ。そしてその原因は僕にあるんだ』
 そして、ついにその時間がやってきた。忠彦は持ってきた弁当を一口も食べることができなかった。お腹が空いた感覚もなかった。ただ、誠寿を横目で見ながら誠寿が食べ終わるのを待っていた。誠寿がお弁当の蓋をすると、忠彦は席を立った。喉がカラカラに乾き、声が震えた。
「あのさ誠寿、ちょっと話があるんだけど」
「うん? 何?」
「ちょっといいかな」
 忠彦はそう言って教室を出た。萌美が自分を見ている視線を感じた。『頑張らなければ、友達を一人失ってでも頑張らなければ。僕は萌美さんを失いたくない』心臓がバクバクする。喉が張り付く。手が微かに震えている。でも、頑張らなければ。
 階段を上がり、屋上へ通じる途中の踊り場で誠寿を待つ。
「どうしてこんなところで?」
 誠寿はいいやつだ。だけど、伝えなければならない。
「あのさ、俺さぁ」声が震える。
「何?」
 覚悟を決めて、伝えろ、伝えてしまえば楽になれる。心臓がバクバクする。
「俺、萌美さんと・・・、」
「萌美に話をしてくれたのか?」
「いや・・・」
「萌美なんて言ってた?」