オナラはなんでも知っている

 英治はかつて自分が付き合うとしたら釣り合いが取れる女子は誰だろうと考えた時に、その一番上のランクに位置付けていたのが萌美だった。自分との釣り合いを考えなければ当然メアリーが一番になるのだが、現実的に考えるとそれは無理だ。付き合ってくれる女子と考えれば一番は萌美で、現に今までは誠寿と付き合っていたから可能性は十分にある。誠寿と自分との差はほとんどない、もっと言えば、誠寿より断然自分の方が頭がいいぶん上に位置している。どうして萌美は自分ではなく誠寿を選んだのかわからない、と考えているぐらいだった。その萌美が誠寿と別れていて、このタイミングで忠彦から萌美のことでメッセージが来た。ということは、萌美が自分のことを好きだと忠彦に相談しているということではないか。一瞬でそこまで想像し、途端に緊張から喉が乾いた。英治は震える指でメッセージを送信する。
 『萌美さんがどうかしたの?』
『実は僕、萌美さんと付き合おうかと思ってるんだ』
 あっ!
 英治は忠彦から送られてきたメッセージに驚愕した。あの忠彦が、女子と付き合おうとするなんて、しかもこの僕を差し置いて萌美さんだなんて・・・。何言ってるんだバカが、お前なんかが釣り合うはずないじゃないか、と心の中で罵倒する。
 『ちょっと待てよ、萌美さんの気持ちだってあるだろう』英治は忠彦の自分勝手さに呆れ、忠彦に己を知ってもらうためにメッセージを送った。全く萌美さんの気持ちも考えないで、早い者勝ちじゃないんだぞ、と思う。
 だが、忠彦から送られてきたメッセージは衝撃以外の何物でもなかった。
 
『英治には話すけど、萌美さんから付き合ってって言われたんだ』

 英治は急速に自分が一人取り残されていく気がした。友達だと思っていたものがはるか先を行き、必死に走ってもどんどん離されていく感覚。
 誠寿は萌美と付き合っていた。
 忠彦は萌美から付き合ってと言われた。
 それなのに自分は何も言われていない、女子から付き合ってとか、好きとか言われたことのない自分は一体なんだ・・・。俺は、圏外なのか。女子の誰からも圏外の扱いなのか・・・。俺では女子から選ばれないのか。どうしてだ、どうして俺ではダメなんだ。俺なんてこんなに頭がいいのに・・・。
 『まじ?』と返すのが精一杯だった。