オナラはなんでも知っている

 なんて、なんて、可愛いんだろうと思う。可愛いどころではない、まるで天使だった。昨日までの見え方とまるで違う。同じ萌美のはずなのに『好きよ』『好きだ』とお互い告白した後はこんなにも可愛く見えるなんてまるで魔法にかかったようだ。しかもあんな表情で自分を見てくれるなんて。初めての経験、初めての感激だった。
『これが両想いか・・・。こんな気持ちになるなんて、もう、ダメだ。僕はもうダメだ。誠寿には悪いけど、僕は萌美さんと絶対に付き合うんだ!』
 忠彦の中で、萌美に対する気持ちが爆発的に育まれていく。もう後戻りはできない。自分の中に生まれた『愛』という感情にずぶずぶ沈んでいく。
「おはよう」突然声をかけられハッとして目をあげると、目の前に誠寿がいた。
 ドキン!
 今度は冷や水を浴びせられたような胸の痛みを味わい、頭からサッーと血の気が引くのがわかる。
 忠彦は誠寿から視線を逸らした。
「トイレ行こっと」忠彦は自分に言い訳をするように足早にその場を逃れた。
『どうにかしなくては、早くどうにかしなくては・・・』

 一方、ゆかりは教室に入ると視界の中に違和感を感じた。
 誰かから見られている。
 親しい友達は萌美しかいない。だが、萌美は自席で赤くなったりモジモジしていて自分が教室に入ってきたことも気がついていないようだ。教室内を改めて見回しても先程の視線は感じなかった。誰だ、誰が自分を見ていた? 視線に気がつかないふりをして何気なく振る舞っているとまた視線を感じた。そっと顔を上げ、視線の主を探す。
 啓だ。
 啓が自分を見ていた。今まで啓が自分を見ることなんてなかった、そんな視線を感じたこともなかった。この前校門で助けたからに違いない。きっと私を幽霊女だと思って探っている。ここは変に目を合わせず、気づかないふりをして無視をした方がいい。ゆかりはそう思った。

 2時間目の体育の授業の前の休み時間、クラスは男子生徒だけになり着替えが始まると、徳乃真が着替えながら椅子の上に立った。
「近いうちに俺はメアリーとセックスします!」
 男子生徒がどよめく。
 セックス。
 まだほとんどの男子生徒が経験していない憧れの行為。
 ただただセックスができるというだけでも羨ましいのに、その相手はあのメアリーだという妬んでも妬みきれない狂おしい思いと身がよじ切れるほどの憧れに心が悲鳴を上げる。