オナラはなんでも知っている

 でも、今は萌美ちゃんに返事をしなくては、そう思った忠彦は、悩みに悩んだすえ、
『萌美さんの気持ちはすごく嬉しい。僕も萌美さんのことが本当は前からずっと好きだった。心のどこかでこうなることを望んでいた。だけど、ちょっと待ってて、誠寿に悪いから。誠寿は友達だから、僕から誠寿にちゃんと話をするから。それまで待ってて』と送った。
「うおぉ・・・」最後にもう一度声が漏れた。

4月16日 土曜日
 翌日、忠彦はいつも通りの時間に教室に入った。自分では冷静に普段通りを心がけて教室に入ったつもりだったが、視界の中に萌美を捕らえた瞬間、心よりも体が反応した。
 ドキンとしてカッーと体が熱くなる。
 昨日から何度この体の反応を繰り返せば気が済むのだろう。こんなことが続けば自分の体は持たないのではないかと思う。顔が赤くなっていくのが自分でもわかる。平常心も、平常な体も保てない。歩き方すら忘れてしまったようでぎこちなく感じる。椅子を引こうとしていつもは右手で引いていたのか、左手で引いていたのかすら分からなくなる。いつもやっていた何気ない動作ができない。
『あれ、このあと鞄はどうしていたっけ・・・』
 しかも、1秒おきに『忠彦君のこと好きだよ』というメッセージが頭を巡る。
 忠彦はわざとらしくならないように教室内を見回すといつも通りの生徒が視界に入ってきて、昨日と何一つ変わらない姿がそこにある。昨日萌美に告白されたというのに誰も自分に関心を払わないのが不思議で仕方がない。確かに告白されたことなど知るよしもないのだから当然なのだが・・・。そのまま教室後方の萌美の姿を探す。
『いた! 萌美だ。萌美がいた』
 萌美もその瞬間顔を上げて忠彦を見た。
 目が合った。
 萌美は嬉しさと恥じらいと少しの緊張感のある微笑みで忠彦を見た。しかも、手を胸元で小さくふった。
 ドキン! カッー!
 忠彦は自分の心臓に穴が開くのではと思うほど、心臓がパンクしたかと思うほど痛みをともなう収縮をした。顔が赤くなるのを感じてとっさに視線を逸らす。
『可愛い』