オナラはなんでも知っている

「姉ちゃんいいよ」素っ裸の亮平が風呂から出たことを知らせてくれる。ゆかりもちょうど洗い物が終わり風呂場に向かう。
「お風呂の蓋しめてないからね」母親はパジャマを着て洗濯物を洗濯機に入れながら「あんた、またシミ出したんでしょう?」と言ってきた。
「なんでわかるの?」
「そりゃ、お母さんだもん」
「人助け」
「誰を助けたの?」
「暗い男子」
「好きなの?」
「成り行き」
「まぁ、使っちゃったものは仕方ないけど」
「そうなのよねぇ・・・」
「あんまり人前で使うと、また幽霊女だって言われるわよ」
「うん」と言って、自分の脱いだ服を洗濯機に入れて浴室に入っていった。
 ゆかりは湯船に体を沈めて壁を見る。
 するとその壁に黒い点が現れた。
 その黒い点は徐々に広がりやがて壁一面を真っ黒に変えると風呂場の床に広がり始めた。本来そこにあったシャンプーやコンディショナーのボトルも黒い影の中に隠れる。やがて大きくなった黒い影はまた縮み始め、そこにあったシャンプーやコンディショナーのボトルが姿を表し、壁の点となり、その点も消えて元どおりの浴室に戻った。

4月15日 金曜日
 朝、萌美は学校の正門の花壇に黄色い鳥がパンジーに隠れるように刺さっているのを見つけた。
『黄色い鳥だ』
 ドキンと心臓が飛び跳ねる。あの下に忠彦君の気持ちが埋まっている。今すぐでも掘り起こしたいのだが、登校中の生徒が多く、隙を見ても一人になることはない。帰るときに掘り返そうと見て見ぬふりをして正門をくぐる。教室に入っても萌美の気持ちはドキドキしてしまい落ち着かなかった。忠彦のことが気になり、チラチラと不自然に見てしまう。意識していないのに、急に顔が赤くなったり、手に汗をかいた。自分の気持ちを落ち着けようとゆかりを探した。
「ゆかり、ちょっと、ちょっときて」萌美は一人であたふたしてゆかりを引っ張った。
「何、どうしたの?」
 二人は廊下に出ると、萌美は小声でゆかりに話し始めた。
「黄色い鳥が立っていたの」
「本当に?」
「うん。今日の放課後取り出すから、一緒にいて」
「うん」
「あぁ、もうあたしダメ、もう緊張している。黄色い鳥なんて見つけるんじゃなかった。帰るときに偶然見つけた方がよかった」
 萌美はこの日、一日中ドキドキした気持ちのまま過ごした。