オナラはなんでも知っている

 啓は立ち上がってゆかりを見た。
 ゆかりは啓を見た。「大丈夫だった?」
「うん」
「花、大丈夫?」
「あっ、うん、また植えるから」
「ひどいことするのね」
「・・・ありがとう」
「いいわよ。いつもここ綺麗にしてるのは啓君だったのね」
「うん」
「じゃあね」と言ってゆかりは去って行った。
 啓は花壇を見た。土からカプセルが半分出ていた。
『危なかった・・・』啓はまだ体の震えが止まらない。それでも周りを見回して、ここを見ている人が誰もいないことを確認するとカプセルに土をかけ、パンジーを植え直し、カプセルを埋めたところに黄色い鳥を刺してこの場を立ち去った。
『危なかった、いろんな意味で危なかった・・・』
 啓は一人歩きながらさっきの出来事を考えた。
『それにしてはよくあの歳でお漏らしなんてするものだ。なんでお漏らししたんだ? 怖かったのかな? 何が? 怖い先生が後ろにいたとか? いや、あの場には僕らしかいなかった。僕らが怖いわけではないし。しかもどれくらい怖かったらお漏らしするんだろう。あいつだけ幽霊が見えたとか?』
 そう思ったところで啓は思い出した。
『そういえばゆかりさんは幽霊を出せるとか、悪霊と友達だとか噂で聞いたことがある。もしかするとあれはゆかりさんと何か関係があるのか・・・』啓は確信した。
『ゆかりさんは幽霊を呼び寄せた!』

 ゆかりは食事が終わると、弟と母親がお風呂に入っている間に夕食の後片付けのお皿を洗いながら今日のことを思い出していた。『軽率に助けすぎたかなぁ・・・。でもあの場合助けないわけにはいかなかったしなぁ』
 図書室で本を選んでいて遅くなり、急いで帰ろうとした時に啓が絡まれているのを見た。ゆかりはあの花壇に心和ませてもらっていたし、花壇を必死に守ろうとしている啓を放っておくことができなかった。一旦学校に戻り先生を呼んでもよかったのだが、それをしている時間はなさそうで、ついつい親譲りの正義感が出てしまった。
『あぁあ、やっちゃったなぁ。もしかしたらまた明日から噂が広がるかもしれないなぁ』と啓を助けた代償について考える。
『まぁ、助けたことは仕方ない。何も悪いことをしたわけではないんだから、自分が反省することはない』と自分に言い聞かせた。